第49章 独占欲 斎宮宗
向かい側からわざわざ隣に移動してきた天祥院。
彼は微動だにしないアタシにため息をついた。その吐息がかかるほど、距離は近かった。
「ちょっとは振り向いてくれてもいい気がするけどね。」
それは………保育園児の我が儘のようだった。
アタシはクスリと笑った。
何だ、可愛いところあるじゃないか。
もしかして可愛い気ゼロの紅郎が学院では浮いてるんじゃないだろうか。
「ガキと遊ぶ趣味はないんだ。」
それ以上近づいてこず、天祥院はソファーにもたれかかった。
「じゃあ高村さんはいつ誰と遊ぶんだい?」
さっきの名前呼びは何だったのだろう………。
アタシは不審に思いながらも、答えてやった。
「今からひねくれた人形師と遊ぶさ。」
そう答えると、天祥院は軽く吹き出した。
天使だとかそんなんじゃなかく、ようやく天祥院英智としての笑顔が見れた。
そして………車はそこで止まった。
それと同時に、勢いよくドアが開く。反射的に天祥院を思いっきり突き飛ばしてアタシと離れた場所に移動させた。
「杏里ッ!!!」
ドアを開けたのは宗だった。
それもそのはず、ここは宗の家の前なのだから。
突き飛ばされた天祥院はキョトンとしていたが、やがてその理由が分かったのか居住まいを正した。
「うん、じゃあ僕はこれで。」
そして何もなかったかのようにそう言った。
「ハイハイ、運転手さんにお礼言っといて。ただ乗りさしてくれてサンキューね。」
アタシはそれだけ言って外に出よう……としたが、動く前に宗に引っ張られ外に出された。
「じゃあね、斎宮くん。」
オマケと言わんばかりに天祥院がそう言い、サッとドアを閉めた。リムジンは静かに、あっという間に去っていった。
「杏里ッ、君は何を考えているのかね!?」
「お前、天祥院を何だと………」
「ノン!僕が言いたいのは「そこまでじゃ」」
アタシ達の間に入ったのは零と紅郎だった。
「家の前で怒鳴ってんじゃねえよ。ったく、高村が天祥院の車に乗ったって言った瞬間部屋から飛び出しやがって。お陰で肝が冷えたぜ。」
アタシ達はとりあえず、宗の家に入った。家に入るやいなや宗はアタシ達を置いて自分の部屋に引きこもってしまった。
そして零と紅郎からアタシが車での経緯を聞いた。