第49章 独占欲 斎宮宗
「………それで?」
しかし
「それでどうするの?」
アタシはそれだけだった。
それだけしかできなかった。
「……………」
言葉がでない。
「…………………………何でもない」
アタシは最悪だった。
例え、奴の口をついて出た嘘とはいえ………
友達のために怒ることもできない。
「うん、それで正解。」
天祥院の手がアタシに伸びる。
彼は優しく私の頭に触れ、幼子にするようにゆっくり頭を撫でた。
「あなたは…………本当に無感情だ。まるで人形みたいに。」
肩にかかっていた髪がサラサラとテーブルに落ちた。
「……お前に言われなくても分かってるよ」
天祥院の胸ぐらを掴む手に力がこもる。
「アタシは…………零みたいに、何でもできるわけじゃない。紅郎みたいに強くもない。宗みたいに………………何か秀でるものはない。」
ギチギチ、と掴んだ胸ぐらの天祥院の服が嫌な音を立てた。
「取り柄はこれくらいだ。他人を思わない、自分主義の…………このひねくれた性格だけだ。」
誰かに同情も、復讐心も、何も抱かない。
アタシはアタシのためにしか動かない。
身勝手と言われようとも、何と言われようとも。
アタシはアタシを否定しない、
「………やっぱり」
天祥院は手を止めた。ピタリ、と撫でるのをやめた。
不快だからその手を振り払おうとしたが、彼はすぐ手を頭からはなした。
「君は魅力的だ、杏里」
かわりに、テーブルに落ちた髪をつまみ上げ自分の口元によせた。
いきなりのことに何だかゾッとして、アタシは掴んでいた胸ぐらを放し身を引いた。
天祥院はそれと同時にパッと髪をはなした。
アタシは元通り、座り直した。
口元によせられた髪を無意識に撫で、アタシは天祥院を睨み付けた。
「高校生が………随分なことするのね?」
「………フフフ、案外初なんだね。」
天祥院がゆっくりと立ち上がり、移動し始めた。
アタシは微動だにしなかった。