第47章 何事にも屈しないけれど時には泣いてしまいそうになる 衣更真緒
植物係りだった私は誰よりも早く来て教室の植物に水をあげていた
『おはよう』
『あ、おはよう』
声をかけてきたのは同じクラスの男子。彼はいつも遅刻ギリギリに来る子だった。
『早いんだね』
『………その、お前に言いたいことがあって。』
『ん?何々?』
中学最初の冬。
当時周りカップルはチラホラできていたが、私には他人事にしか思えなかった。
『お前が好きなんだ。付き合ってくれね?』
だからこんなこと言われて、頭が真っ白になったことは覚えている。
『え…』
『他に好きな奴いんの?』
『い、いないけど…』
『じゃあよくね?』
『でも私、君のこと……そんなに知らないし、だから…
ごめん!』
それでも必死に自分の思った通りのことを言った。ちゃんと言った。
でもそれは、間違ってたみたい。
『………ッこの!!』
『うッ………ングッ!!!!』
教室に私のくぐもった悲鳴と、植物のプランターが床に落ちる音が響いた。水やりを終え空っぽになったじょうろがカラカラと音を立てて転がった。
私は教室の壁に叩きつけられ、口を彼の手により抑えつけられた。
『調子に乗んなよ!!ちょっと顔が良いからって!!』
『…ッ、ぐ、………ッん…!!』
必死に抵抗するもこの時期には既に男女の体格、力の差
が見られるようになっていた。
『付き合えっつったら付き合えば良いんだよ!!』
『……ゥ…ッ、!!』
口を抑えていない方の手で床に落ちたプランターをつかみ、それで思い切り私の額を殴った。
土が入っていたそれはかなりの重さがあって、激しい痛みが私を襲った。血が垂れる感触に私は本当に命の危機を感じた。
彼がもう一度私を殴ろうとした瞬間。
教室の扉が開いた。
『おいーす、あんずーお弁当忘れ…て……………』
私が幸運だったのはお弁当を家に忘れていてそれを朔間が持ってきてくれたこと。
『…………お前ッ!!あんずに何やってんのッ!?』
『な、何で二年が……!?』
その後、朔間が私から彼を引き離し保健室へ連れていってくれた。
未だに私に残っているのは額の傷痕と、男子に触れられるトラウマ。
それは朔間と衣更も例外ではなかったが、中学の二年間をかけ二人は何とか触られても大丈夫になった。
私は今でもあの恐怖が忘れられない。