第46章 クソ野郎が結婚したようです 七種茨
夢ノ咲時代、一度だけ倒れた。
あの時も全く同じだった。
私の悪い癖。何もできないくせに強がるのは。
(…………バレてるんだろうな)
家にタクシーが着いた。ありがとうございます、とお代を払おうとしたらもうすでに相良先輩が払っていた。
返さなきゃいけない。
メモに書かなきゃ忘れちゃう。
早く家に行こう。
体が重いなあ。
熱あるのかな。
熱なんてあっても、動けなくなるなんてことはない。何もできなくなることはない。
何もしないことは、怖い。
私もあの頃の先輩のようになってしまうかもしれない。
動かないと。
動かないといけない。
私はふらつく体に鞭を打って立ち上がり外に出る。
瞬間。
赤い髪が目に飛び込んできた。
「お送りいただきありがとうございます!!」
運転手に一礼し、彼は私を支えてくれた。
運転手は茨と目を合わせることなく、素っ気なく車を走らせ去っていった。
もしかしたら、アイドルということに気づいて気を使ってくれたのかもしれない。
「……………馬鹿ですね。」
茨はポンポン、と私の頭を撫でてそう言った。家の中に連れていき、リビングのソファーに座るまで支えてくれた。
「……レッスンは?凪沙さんと、あるんでしょう?」
「閣下は相良さんにお願いしました。………兄弟ですから。心配してませんよ。」
茨は何も言わない。ほら、やっぱりバレてた。
今回の過労は行きすぎたらしい。いつも以上だ。本当に体が思い。吐き気がする。
気分は最悪。
「温かいお茶をいれたんです!まずは暖まりましょう!」
茨はにこやかにキッチンへと向かっていく。
その背中を見て、ホッとした。気が抜けて、ソファーに寝転ぶ。
苦しい
それでも頭の中にはそれしかなかった。
キッチンから茨が出てきて、ガシャン、と音がした。どうやら湯飲みを割ったらしい。
_____何落としてるの、馬鹿じゃない?
と言ったつもりが声が出ていない。
茨が私のもとに駆け寄ってくる。
それだけ見えた。