第46章 クソ野郎が結婚したようです 七種茨
目が覚めて目に入ったのは白い天井。
高校の時、一度だけ見た病室の風景だ。
体がだるくて重い。首だけ動かすと、右側に茨、左側に白衣を着た病院の先生がいた。
「……………ッ!!」
茨はギュッと何も言わずに抱きついてきた。
その顔は、私が大好きなあの笑顔。
え!?となっている私にかまわず、ギュウギュウ寝ている私に抱きついてくる。何度も何度も。
終いには頬を刷り寄せてきた。
「おめでとうございます」
いやいや他人いるから!?新婚じゃないんだよ何やってるの!?と茨に言おうとするも何がおめでとうだふざけんな!と叫びたい方が勝った。が、初対面の人には何も言えないので黙っておいた。
「妊娠5ヶ月です」
「………………………はい?」
ニンシンゴカゲツ
「え、何で?そんな気配どこにも…」
「あなたの今の症状は全て妊娠の症状です。ほんとはもっと早く気づくんですよ。失礼ですが、月経は?」
「…………すみませんチェックしない派なんで」
「お腹も少しは膨らんだのでは…」
「ふ、太ったと思って……食欲増えたし……!」
「それも妊娠の症状です」
な、何てこった………
自分が愚かすぎる。
妊娠と言われて、ちゃんと心当たりはあって……
「よ、喜んで良いんですか?」
「少なくとも旦那さんは喜んでますよ」
「はい!とっても!!」
茨はニコニコと答えた。それに微笑み返した先生は仕事が他にあるのか失礼します、と私の病室から出ていった。
「あんずさん!しばらくお仕事はお休みです!体調が落ち着いたら家に帰れるそうですよ!!あと名前はどうします!?それからそれか「ちょっと落ち着いて!」」
一気に捲し立てられるとパニックになる。こちとらまだ起き上がれもしないのに。
「……頼んでいいかな。茨。
先輩のこと。」
なので端的に伝えた。
彼はにっこり笑ってくれた。
「やっと………頼んでくれた」
彼は更にギュッと抱きついてきた。
「もっともっと頼って良いんですよ…」
「…………うん」
たくさんの心配をかけていた。
気づけなかった。
知らないようで知っていること
知っているようで知らないこと
私達にはまだまだ多いけど。
嘲笑わないよ。
ね、先輩。
何でもできる人間なんて、いないもんね