第46章 クソ野郎が結婚したようです 七種茨
それでも私は彼の元へ足しげく通った。
「先輩こんにちはーーーッ!!おお!その絵良いですねー!!タイトルをつけるなら…………『黒』ッ……!?」
「そりゃ黒しか使ってないからね?ドアを乱暴に開けないでくれる?修理費ワタシが出してるんだよ?部費もうすっからかんなんだよ?」
「わっはっはっ!!いやー、それにしても黒色だけの絵も良いですね!!ほしい!ほしいなー!」
「新しい絵の具のチェックだよ?ほしいの?ゴミだよ?ゴミくださいって?いいよあげるよ?」
とか、そんな会話しかしなかったけど。
しだいに、先輩にひかれていった。
先輩の何もない目に私が写れば写るほど、ドキドキした。
あれを恋と言わないなら何と言うのだろう。
でも…………そんな、そんな時だった。
私は茨と出会った。
やたらと誉めてくるし、心から笑ってる笑顔なんて全然見せない。おまけに性格も最悪。
大嫌いだった。
何でこんなやつこの世に存在してるんだろう、と思った。ライブであいつにサイリウムを振る女の子達が信じられなかった。
SSを終えても、茨への評価は変わらなかった。大嫌いなくそ野郎だった。負けて当然と思っていた。
そんな茨が、SS後に私に言ってきたことといえば
「好きになってしまいました!!」
…………笑顔で、おまけに敬礼をして。
初めて茨の心からの笑顔を見た瞬間だった。
(………良い顔するんだね)
今でも鮮やかに覚えている。
思い出せる。
相良先輩のことは好きだ。優しいし、何でもできちゃうし、かっこいいし…………
誰よりも人間らしい。
でも茨はちょっと違う。
「どうして結婚したの?」
そう聞かれたら、私は迷いなく答える。
「笑顔が好きなの!!」
私の心を一瞬で、相良先輩から茨に引き離した
あの笑顔が大好き。
笑顔だけじゃない。
嫌いなところなんて、どこにもない。