第46章 クソ野郎が結婚したようです 七種茨
飲み物を買うと言ったは良いものの、苦しいのはおさまらない。
(まっずいな……相良先輩、絶対茨に言ったよね……)
こんな状態の人間をほうっておけない人だ。先輩は。
「………帰ろうかな」
ポツリと呟くも、当然返事はない。
(……………茨)
会いたくなった。
大して離れてもいないのに。
昨日の夜、あんなことをしたのに。
会いたくなった。
「……………あんずさん」
「先輩……」
もはや強がる余裕などなかった。
そのまま先輩の体に倒れこむ。
「………わかってる、わかってるからね。」
先輩は優しくそう言って、私の体を支えてレッスン室がある建物の外まで連れていってくれた。
タクシーを呼んでいたようで、目の前にあった黒い車に私を押し込み、運転手に私の家に行くよう伝えた。
アイドルの相良由蘭を前にして驚いたようだが、仕事中ということもあって何も言ってこなかった。
座ったことにより少し落ち着き、うとうとしだした。家までは一時間くらいかな。少しは眠れるかな。
そんなまどろみの中、私は相良由蘭という人物について振り返った。
「君はワタシに何を望むの?」
初めて会ったのは、美術室。先輩は美術部だったから。他に部員はいなかった。ほぼ潰れかけの部活に先輩はいた。
あの時の先輩は常に孤独に身を置いていた。
零先輩から相良先輩については聞いていた。元fineともあり、革命の手助けをしてくれるかもと言っていた。
しかしそんなことは彼を目の前にしてすっとんだ。
教室を暗くして一人でキャンバスに向かって狂ったように色をぬって、何もない瞳で私を見てくる先輩。
ゾッとした
これが人間かと思った。
本当に生物学上において生きていて、体内に血を巡らせ、脳に酸素を届けているのだろうかと。
それが末路だった。
何でもできるからと、何もしてこなかった人間の末路だった。
怠惰と才能
皮肉にも、それが先輩を殺したのだ。