第46章 クソ野郎が結婚したようです 七種茨
とりあえずクッション元の場所に戻して、俺は二階へと上がった。
あんずさんの部屋の前に立ち止まり、扉を叩く。
バン!と柔らかいものが扉にぶつかる音がした。さては枕でも投げたな。
俺の顔にもそれ投げてくれれば良かったのに。まあまあ柔らかいだろうに。
「あんずさ「きーこーえーまーせーんー!!!」」
聞こえてんじゃねーかというツッコミをしたら命が危ないことは分かっているのでなにも言わない。
「どーせ私は私よ!こんなことで腹立ててプンプンしてクッションぶん投げる鬼嫁よ!!!そりゃ旦那も連絡くれないわよ!!」
「お、落ち着いて…!!俺の話を「きーこーえーまーせーんー!!!」」
もう無茶苦茶だ。
こんなとき、どうしたらいいかわからない。いつものように調子の良いことが口から出てこない。
何で、何で何で何で
俺は何も言えない?
しばらくしてから、中から嗚咽が聞こえてきた。
おかしいのは、あんずさんもだった。
……こんなに怒ったりしているのは初めて見た。いつも「大丈夫大丈夫!」とか言って許してくれるのに。
今日は怒るし、泣くし、話も聞いてくれない。
(………………くそ野郎)
見栄はって強がって、頼ってもくれないのか。
俺はドアに背をあずけ、そのままズルズルと床に座り込んだ。
動きたくなかった。
なにもしたくなかった。