第46章 クソ野郎が結婚したようです 七種茨
一通り暴れた凪沙さんは部屋の隅で心を閉ざしている。茨は必死に慰めていたが彼の顔は全く晴れない。
とりあえず私は相良先輩の腫れた頬を何とかしようと湿布を買ってきた。
それをはってる最中、彼は私にしか聞こえないような声で凪沙さんとの間に何があったのかを教えてくれた。
「凪沙とは……元々馬が合わなくて。喧嘩こそしなかったけど、英智はそれをわかってたんだと思う。ワタシ達をあまり近づけさせないようにしていた。
…ワタシは、凪沙が大好きなんだけどね。」
「…………………はい?」
突然何のカミングアウトをしてるんだろう。
「あ、恋愛感情はないよ?」
「いやその線は疑ってませんよこれっぽっちも。」
「ワタシ皆大好き。皆大いなる宇宙の子供達、兄弟……。」
相変わらずスケールが大きい。
先輩は博愛主義者……てところで凪沙さんと共通してるんだけどな。
「凪沙と初めて会ったとき、ワタシはパンを落とした。」
「………パン?」
「そのパンをゴミ箱に捨てた」
「…………そりゃ捨てますよ」
「でも近くにアリがいた。」
「………………ふーん」
「そのアリ、今にも死にそうだった。」
「………………………へー」
「何でそのアリにパンあげないのって怒られた。」
「………………………………ほー」
「……ワタシ、アリを殺したってことで嫌われてる」
「いや違うね!?寿命だね!?例えパンあげても生き返らないね!?え!?何!?そんな理由!?」
先輩に聞こえるくらいの声で叫んだ。もはや息しか出てないのでハヒュー!ヒュー!!って叫び散らしてるくらいのもんだ。
「…………つむぎに話したときと同じこと言うね。」
「そりゃ言うよー!至極当然だものそういうものだもの~!!!」
予想以上に下らないことだった。
アリの寿命は人間より短い。全てを愛する博愛主義者はそこに盲目だった。
アリなんて死んで同然、とは誰も言わない。彼らだって命がある。
でも相良先輩を足元で死んだそのアリは自分の生を全うしたのだ。
相良先輩がたまたまそこにパンを落としただけだ。
「…ワタシ、凪沙のことはよくわからない。正直。でもあのアリのことは口実で……………
もっと違うことがある気がするんだよね。」
「先にそれ言ってくれません!?」