第45章 チョコレートなんてあげない 漣ジュン
私は家に帰った。
帰った、帰った。
何のために帰った?
自分の部屋に入るやいなや、疑問がぐるぐるとまわりだした。
「……………ジュン」
「よう」
私はそのまま持っているスクールバックでどれだけ殴ってやろうと思ったことか!
私は何のために泣いたと思っているんだ(彼には関係ないけれど)
私はそのままあたふたと下に降りて、晩御飯を作る母の元に駆け寄った。
「どうして入れたの」
ここのところ口を聞いていなかったけれど(反抗期ゆえに)母はいつもと変わらない。
「だって、イケメンの頼みは断れないじゃない!大きくなったわねぇジュンくん。」
駄目だこりゃ、と私は頭を抱えた。
部屋に戻り、私の部屋の真ん中でどうどうと胡座をして私の雑誌を熟読しているジュンの背中をしばらく眺めていた。
思えば、会うのは久しぶりだ。
彼が見ていたのはバレンタイン特集の雑誌で、私はチョコレートマフィンを作ろうとそこに付箋をはったりメモをつけたりしていた。
彼はそのページを指差して、
「これ作んの?」
と聞いてきた。私が頷くと、彼はペラペラとベージをめくった。
「俺これ食いたい。」
「リクエストは受け付けてないよ………」
ガトーショコラのページを指差して、彼はねだってきた。しかし私の返事は相変わらずそっけない。
ジュン相手になると、私は可愛げが一つもない、本当の私になった。
それは嫌なことではなかった。
ジュンの隣に腰を下ろし、私はガトーショコラの作り方を見た。
「え、やだ面倒くさい」
「………お前な…」
ジュンはため息をついたと思えば、雑誌を閉じて私によりかかってきた。
「………ま、何でもいい。お前が作ったやつなら。」
「嬉しいこと言ってくれるね。」
ジュンはしばらくよりかかり、ため息混じりに言うのだ。
「……何か、落ち着く」
私も、そう思った。