第45章 チョコレートなんてあげない 漣ジュン
「……私は、あんずさんが決めたら良いと思う。」
被せられたブレザーの隙間から見える凪沙さんが語り出す。
「……でも、辛いなら」
凪沙さんがそこで少し微笑んだ。
「……泣けば良いと思うよ」
ここで泣くのはお門違いだろうか。
別れたいのに別れるのが辛くて私は泣くのだろうか。
きっとそれは違うだろう。
私は凪沙さんのブレザーをギュッと握りしめた。
ポタポタと涙が零れていく。
涙なんて見せたくなかったから、ブレザーはありがたかった。
泣いてるくせにそんなこと言えたことではないけれど。
私は、泣く。
私のことが大嫌いだから。
私をあんなに大切に思ってくれているジュンを裏切るから。
「好きって思ってなくても、付き合ってて良いと俺は思いますよ?」
私の嗚咽しか響かなかった部屋に、茨が相変わらずの口調で言った。
彼は、猿ではなく人間を見ていた。
私を見てくれていた。
「だ、……だっで、いば、ら…わ、私は、私、嘘ついて……ずっ、と……」
エグエグと泣きながら話すものだから酷い涙声で聞くに耐えなかったが、茨はいつもと態度を変えなかった。
「ジュンが言ってましたよ。あんずさんは彼女っていうより目が離せないだけだと!!なのでそこまで思い詰めなくても大丈夫だと思います。
天使の涙は世界を不幸にしますから!!」
茨は使ってください、とハンカチを差し出した。私は受け取れなかった。
「そうだねぇ、僕らから見ても君達はカップルというより幼なじみの延長戦って感じだね!」
日和さんはもはや茨からハンカチをひったくる勢いで奪い取り、そのまま優しく垂れ流し状態の涙を拭いてくれた。
「……そうかもね。」
凪沙さんが泥を払い落としながら賛同した。(この落ちた泥は後に伏見くんが喜んで掃除することとなる。茨もいたと言えば、たぐいまれな黒い微笑みを見せてくれた。)
「……それが、君達かもね。」
何だか無理やり納得させられたような気がした。
納得できない、と言えば、今はそれで良いと言われてしまった。
茨から聞いた、ジュンの気持ちに気づけなかったことも私の罪なのだろうか。