第45章 チョコレートなんてあげない 漣ジュン
「……茨、もういいよ。私は納得した。」
凪沙さんはゴシ、と泥のついた顔を制服で拭った。
「良くないよッ!!」
しかし、穏便にすます気はさらさらないらしく、日和さんはどういうことなのかを聞いてきた。
私は覚悟していた。
でもいざ口に出すのは
この上なく恐ろしかった。
「………あんずさん、私が言おうか?」
私は何も答えない。
答えられなかった。
今この瞬間、少しでも動くと誰かに殺されてしまいそうだった。
恐ろしくて恐ろしくて、何もできなかった。
しかし凪沙さんはそれを肯定と捉えた。彼の口から出る言葉を遮る勇気も愚か者の私にはなかった。
それもまた、私の罪だった。
「………ジュンと別れるつもりなんだよね?」
うんともすんとも言わなかった。
それもまた肯定だった。
「「ええ~ーーーーーーーーーーッ!?!?」」
日和さんと茨の声がシンクロする。
この二人、仲が良いイメージなかったんだけどな。
「え!?本気!?」
「嘘言いません。」
「……………ジュンざまぁ」
「茨、聞こえてるからね!?」
茨は違うベクトルに行っている。別に仲が悪そうには見えないんだけど。
仲良くしてほしい、なんて私が言えたことではないけれど。
「あんずちゃん、何か嫌なことあったの!?本当にあのことについてそんなに思い詰めなくても良いんだよ!?」
「………違う」
違う、違う違う
私は
「私は、ジュンを好きだとか思ったことないんです。」
そこで生徒会室はシーンとなった。
皆、私の次の言葉を待っていた。
でも、それが愚かな私の全てだった。
すると、それまでずっとソファーの後ろにいた凪沙さんが立ち上がった。
いきなりブレザーを脱いだかと思えば、バサッと私の頭にかけてきた。
少々土の匂いがしたが、先ほどまで着ていたということもあり凪沙さんの匂いがする。(自分で私がきもくないかと思ったがこの状況では仕方ないと思う。)
ていうか何だコレ。新手の嫌がらせか?