第45章 チョコレートなんてあげない 漣ジュン
「本当にチョコを誰にあげるかだけを聞きに電話かけたの?」
『悪ぃのかよ』
悪いよ、と言いたいけど話が長くなりそうなのでやめておく。
「そもそも、バレンタインとか忙しいんだから君は来れないんじゃない?」
『死んでも行く』
死なないでほしいと言う間もないくらい呆れ果ててしまった。今更あげない何て言ったら大変なことになりそうだ。
「…………ごめん、まだお風呂入ってないんだ。切るね」
『あぁ、遅くにごめんな。』
電話を切り、ベッドに身を放り投げた。
とっくに風呂は入っている。
またジュンへの嘘が増えた。
少し落ち込んでいたが、再び着信音を鳴らしたスマホにビクッと体を震わせた。
かけてきたのは、ジュンだった。さっきまで話していたのに……まさか、何か察した……?
出たくなかったが、出なかったら出なかったでややこしくなる。私は意を決して電話をとった。
「もしも『ヤッホー!あんずちゃんこんばんは元気ー!?』ひ、日和さん!?」
『元気ー!?今日は何日和!?』
「良い日和です、元気です…………なのでそのボリュームやめてください耳キーンてなります。」
いきなりのことに心臓がやかましく音をたてる。耳をすませば、電話の向こうからジュンの「携帯かえせ」とか何とか言う声が聞こえてくる。
きっと日和さんがジュンの携帯を無理やり奪ってかけてきたであろうことが容易に推測できる。
『僕に命令はやめてほしいね!!』
相変わらず声が大きい。少し耳からスマホを離した。
「あの、切って良いですか?」
『駄目駄目!!切ってごらん、恐ろしいほどのスタンプをライ⚫で送るから!!通知999+の未来が待ってるからねッ!!』
「スマホの電源落としておきますね。お休みなさい。」
『あーー!!待って待って!!ッてジュン君!!僕が今あんずちゃんとしゃべってるでしょ!!邪魔しないで!!』
どうやら携帯を取り返そうとしているらしい。心の中でも応援したが、結局届かなかった。