第44章 明日ハレバレ良い日和 巴日和
「別れろとは言わない」
相変わらずの低い声で英智が日和をしかと見て言う。
「一番の被害者はあんずちゃんだよ。」
日和はギュッと雑誌を握りしめる。
『Eveの日和、夢ノ咲の噂のプロデューサーとデート!!』
見出しのゴテゴテとした文字がやけに憎々しく見えた。
一般人の彼女には辛いことであったろう。
よく読むと、日和のことは事務所が擁護してくれているがあんずのことは何も擁護されていない。それどころか好き勝手書かれている。
『プレイガールプロデューサー』とか『仕事相手を狙ってる』とか……
「夢ノ咲としても、これにはこまっててね……。これ以上は僕には無理だよ。」
「英智くん……」
「安心してほしい。訂正記事は明日にでも出るよ。」
そこでいつもの彼の声に戻り、にっこり笑った。どこか黒いその笑みに日和は彼の権力行使を疑わずにはいられなかった。
「これ以上は無理だよ。」
英智は繰り返し、念を押すように言う。
「表は正せても、裏はね…」
何のことか分からず呆けた日和の額をコツン、と叩く。痛くもなんともないが、鬱陶しいので身を引いた。
「頼んだよ、僕の………僕らのプロデューサーを。」
そこで英智が何を言いたいのかようやく理解した。
日和は黙って重々しく頷き、初めて紅茶に口をつけた。
すっかり覚めてしまった紅茶だが、日和にはとてもおいしく感じた。