第42章 …………マリーなんとか 乱凪沙 前編
「遅いねえ凪沙くん。」
日和さんがポツリと呟く。それに答える余裕など私にはなかった。
「………大丈夫っすか?」
「凪沙さんにはよくあることだ」
「俺はあんずさんの心配をしてるんすけどねぇ」
いつもは凪沙さんが占領するソファーに思いっきり体を預ける。
参ったものだ、あの人にも。
「ほんっと…つかみどころのない……あーあー駄目だ、今回ばかりは……あの人はいつも私を一人にして…」
思わず本音が漏れた。
「あんずさん…」
優しく名前を呼ばれたとき、自分の弱さがあふれでた。
「明後日なのだよ、ジュン。」
明後日には結婚するのに、一番近しい存在になるのに………
嬉しくないのは、なぜだ?
「こんなに不安になっても、あの人は平気な顔でよくわからないへんてこな石を持って服も綺麗な顔も全部ドロドロにして帰ってくる。発掘作業に行くことを咎めはしない。
でも……なぜ私に一言も言わず勝手に出ていってしまうんだ?という気持ちが私にはあるのだよ。凪沙さんはこんなにも自由………それが私は恐ろしい。
家でその身を案じて待ち続ける奥さんなんて、きっと必要ないのだよ………。
私は……………ッ…!」
次の言葉を発する前に、私はたくましい腕の中にいた。
そばで話を聞いていたジュンと日和さんがこぼれんばかりに目を見開いている。
「………お、お帰り、凪沙くん」
「……どもっす」
珍しく日和さんが空気を読んだだと!?
そして凪沙さんは私を抱きしめたまま
「…………ただいま」
と告げた。
「じゃあ僕らは別室にいるね!あ、凪沙くんこのジャージもらったから!下着はまた返す!!」
「おひいさん最後まで頑張って空気読んでください!!」
ジュンがまだまだ話したりないといった感じの日和さんの背中を押してリビングから退出する。
二人がいなくなった途端に凪沙さんは私から離れた。
案の定、服も顔もドロドロだった。
イライラするとか、殴りたいとか………そんなことより、
無事でよかった、という安堵の涙がこぼれる方が先だった。