第42章 …………マリーなんとか 乱凪沙 前編
麦茶を飲んだら茨は帰った。昼食をどうかと誘ったのだが断られた。…気を遣わせただろうか。慇懃無礼かと思えば、こういう面もあるから憎みきれない。
茨が使っていたコップを流しにおいて、昼食のメニューを考える。
食べ物に関しては気を遣わなくてはならない。茨曰くすぐに筋肉とかつく体質らしいし、体型維持が大切なアイドルにとっては難儀なものだ。
「…………あんずさん」
「何でしょう?」
屈んで冷蔵庫の野菜室からジャガイモを取り出しながら答える。良し、ジャガイモと挽き肉の手抜きコンソメスープにしよう。とかなんとか考えているとズシッと背中に重たいものが乗ってきた。
思わずジャガイモを落とす。
「ちょ、凪沙さん!!」
「…………落としたよ」
「あんたのせいだ!!」
ご丁寧にジャガイモを野菜室に戻してパタンと野菜室の引き出しを戻した。
何事かと思えば、凪沙さんが私の背中に全体重をのせてきたのだ。
その上、首に手まで回してくるもんだから参った。意地でも離れる気はないらしい。
こういうときは、怒ってる証拠だ。
「昼ごはん手抜きにしようとしてすみませんでした」
「…………手抜きでも君のご飯はおいしい」
「そりゃどーも。で、私何かしましたか?」
「…………茨ばっかり構ってたから」
「あんた甘えた時期の子供か」
「…………私は子供の頃、できなかったから」
あ、ヤバいワードだったかもしれない。彼の過去は知っているし、触れないようにしていたのだがついポロッと………
「…………茨と私、どっちが大事?」
はいきたこの質問!
この前冗談で茨と答えたら拗ねに拗ねてアイドル活動もそこそこに、自室に引きこもってしばらく出てこなかった。
日和さんがなんとか説得してくれたからよかったけど。
だからと言ってここで凪沙さんと答えてもなあ。茨が大事じゃないわけではないから。嫌なやつではあるけれど……
それもかなりね。
「どっちも大事ですよ」
とりあえず日和さん風に答えると、彼はギュッと手に力をいれてきた。
「…………まあいい」
少し不満げだが、納得してくれたようだ。
そのあとも中々解放してくれないので、お昼ご飯はすっかり食べ損ねてしまった。