第5章 Valkyrieでも行き着く先はホッケー
斎宮さんはゆっくりと立ち上がってハンカチを私の頰にポンポンとあててきた
「あ、あの…何を……」
「……まさか、気づいていないのか?」
私は試しに自分の頰に触れてみた。そしたら………濡れていた。
え、と目元を触ればホロリと何かがこぼれ落ちた。何か?簡単だ。涙だった。
「ご、ごめんなぁ…辛いこと聞いて」
オロオロする影片くんに何か言おうとするが声が出ない。何故だ。何故、私は泣いている……?
わからない。どうして泣いているのか。どうして気づいていないのか。
「泣くときも無表情とは……まるで人形だな。」
呆れながらも斎宮さんは涙を優しくぬぐってくれている。まるで、あの男の子みたいだ。
「……ありがとう、ございます」
そう言うと斎宮さんと影片くんは目を丸くした。ふと、窓ガラスに私の顔が写っているのが見えた。
私は、笑っていた。
「すみません、あんずがここにいると聞いたのですが…」
そんなところに、一緒に帰る約束をしていた氷鷹くんが部屋の扉を明けた。相変わらず彼は空気を読めない。ズカズカと入ってきて私の手を引っ張った。
「帰るぞ」
斎宮さんはハンカチをしまった。洗濯して返したかったのに、と言いかければ別に良いと言われてしまった。
「早く帰るのだよ。待っているだろう。」
フン、と鼻を鳴らして冷たく言い放つ斎宮さん。でも、私が部屋を出る間際に
「いつでも来ると良いのだよ…影片もそれを望んでいるようだしな」
「っお師さん!やったぁ!おおきにおおきに!!あんずちゃん、いつでもおいでや~っ!」
「……うん」
窓ガラスに映った私は、もう笑っていなかった。