第40章 愛なんてなかったのだ 三毛縞斑
「あんずは、部長をどう思っている?」
唐突に、乙狩くんが聞いてきた。昼休みが始まるやいなや、彼はそう聞いてきたのだ。
「ママは……お母さんみたいに思ってる。」
「そうか。でも部長は違うらしい。」
「……………どういうことだよ」
「おままごとはやめた方が良い……朔間先輩からの伝言だ。」
寡黙な彼はそれだけ言って黙り込んだ。これ以上本人に聞いても無駄だと悟り、朔間先輩がいる軽音部の部室へ向かった。
当然のごとく眠っているので棺桶の蓋を無理やり開けた。
「先輩」
「……………何…じゃ………もう…夜かのお………?」
目をこすりながらゆっくりと体を起こす。。体が大きい先輩は座っていても大きい。
「寝ぼけてんじゃねーぞ。あんた、乙狩くんに何か言ったでしょ。伝言。」
「…………あぁ、そのことじゃったか。」
良く来たの、と良い子良い子される。その手を振り払おうとしたが力が強くて無理だった。
「おままごとなんてしてない。」
「なら、いつまでママなんて呼んでるんじゃ?」
「……おままごとなんてしてない」
先輩は棺桶から身を乗り出して微笑む。
魔物が新たなオモチャを見つけて楽しんでいるように見えた。
「彼をどう思っているのじゃ?」
「……お母さん的な」
「ほれ、そこで駄目なのじゃよ。」
「何がだよ」
段々イライラしてきて、無意識に貧乏ゆすりしていた。
先輩はトントン動く指を抑えるようにやんわりと手を添えてきた。
「少なくとも、彼は嬢ちゃんを娘とは思っておらぬよ。」
「…………………だから、何が言いたい」
「彼の気持ちが分からぬか?」
くっくっく、と不気味に笑い出す。
「他人の気持ちなど分かるはずもない。気持ちは言葉にせねば伝わらぬ。気持ちを言葉にしてくれないのは、出来ないのはお互いを信頼していないから。あるいは
分かろうとしないからじゃ。」
まずは分かろうとすることから始めるのじゃ、と言ってから棺桶の蓋を閉じた。その後蓋を開けようとしたが鍵でもかけたのが全く動かなかった。