第40章 愛なんてなかったのだ 三毛縞斑
「ママ」
まぶたを閉ざした整った顔。たくましい胸板が規則正しく上下する。
「起きろママ」
少し大きめに言うと、彼はパッチリ目を開けた。
「………あんずさんか」
「屋上で寝るな、風邪ひく。」
「眠たくてなあ………」
言い訳にもならないことを言ってママは大きな欠伸をする。
「今日は来るのが遅かったなあ。」
「校門で待っててって言ったろ。ママがどこにもいないから……探し回ったのに。寝てんだもん。馬鹿ママが。」
「こら、また口が悪くなってるぞ。」
「昔からだろ、諦めてるよ。」
そう言って、ママに手を差し出す。それを握ってゆっくり彼が起きる。
「………ママ、手が冷たいぞ。真冬に屋上で寝るから…」
「大丈夫大丈夫、寒くなあい寒くなあい………クシュッ!」
可愛らしいくしゃみをして、真っ赤な頰をさする。さすがに不憫なのでマフラーをやった。
「良いのかあ?」
「ママはアイドルだろーが。」
「………じゃ、こうしとこう。」
ギュッと手を握ってきた。その手はもう暖かかった。
「……ママはストーブみたいだ。」
「あんずさんは昔から冷え症だったなあ」
そうして、学校を出た。
ママは相変わらず手を握っている。
「ママ、寄り道するか?」
「コンビニでも行くかあ!」
と、なったので近くのコンビニへ直行する。
「奢ってあげてもいいぞお?」
「…………自分で買う。」
ママは肉まん、私はピザまん。
二人でハフハフ言いながら食べる。
「ママ一口よこせ」
「そこはくださいだぞお」
「よこせ」
彼は苦笑いして私に一口くれた。
お返しに私のもやった。
「あんずさんは女の子だから、もっと可愛い言葉を使うべきだ」
「……………私は、ママが世界で一番可愛いと思う」
「おおっと、どういう意味だ!?」
その反応に思わず笑ってしまった。
「小さい頃は可愛かった。何で大きくなったかな……」
「じ、地味にひどいぞあんずさん……!」
そんな感じで、私達の下校は終わる。
私の家の前でバイバイして、ママは去っていく。