第37章 シスコンも大概に 春川宙
「私ね、小さい頃に……専属の使用人………桃李くんにとっての結弦くんみたいな人がいたの。最初は良かった、優しくて頼りになるし………
天祥院家に爪弾きにされてた私の唯一の心が許せる人だった。」
背が高くて、整った顔立ちの人だった。
今でも鮮明に覚えてる。
「でも死んじゃった」
私は宙くんの手をギュッと握った。
大した力は入らなかった。宙くんの手が熱い。それほどまで手が冷え切っていた。
「病気だった、しょうがなかった、でも受け入れられなくて…………私は泣いてた、ずっと。そのうち塞ぎがちになって、心の病気になっちゃったの。
…………そしたらあの女と男は困り果てて、代わりの使用人を私によこしたわ…」
宙くんがこっそり皇帝陛下に男と女が誰なのかを聞いていた。皇帝陛下は表情変えず、端的に両親のことだよ、と答えた。
「新しい使用人は最悪。旦那様から皿を割って怒られたとか、奥様から掃除の仕方がなってないから怒られた~とか愚痴を私に吐いた後、蹴ったり殴ったりするんだから。
私、悪くないのに。全部その人のせいだったのに、私を殴った。蹴った。そして……………………」
そこで一息ついた。しかし、声が上手く出ない。
「………もうやめようか」
皇帝陛下が優しくそう言ってきたが、私は首を振った。大丈夫、言える。
「私を捨てた」
「……捨てた?」
「そう。ポイッて。ゴミ捨て場に。それほど私のことが嫌いだったのかな。家の人は私に興味がないから、いなくなったことにも気付かなかったみたい。
………あぁ、一人気付いてましたね」
皇帝陛下に微笑むかける。彼も笑った。
「使用人が主人に背くなんてあってはならないことだよ。僕は、即効で彼をクビにしたね。」
「驚くべきはその後よその後。僕が使用人の代わりに面倒を見るって………今まで話したこともない兄様からそんなこと言われたからびっくりした。」
「兄が妹の心配をするのはおかしいかい?」
皇帝陛下は声を出して笑う。
あまりにも綺麗で憎々しかったので軽く小突いてやった。