第36章 恋愛は積極的に 高峯翠
「……何か、機嫌良いですね」
「それはお互い様じゃないかな」
「分かります?」
翠くんはいつもより笑顔が眩しい。なめないでほしいな!君が前髪を3ミリ切っても分かるよ!?気づくよ!?
「後で話しますね。よし、レッスン頑張ろ」
……………あれ
この子、今なんて言った………?
いつのまにポジティブ高峯になったの…?
そうやって固まる私をよそに翠くんはレッスン室へと入っていく。
「あ、姉御!翠くん、チィ~ッス!」
「うん」
ニコッと翠くんが笑う。ギョッとした顔をして部屋にいた全員が彼の笑顔を凝視する。
「…………み、翠くん、きょ、今日はすこぶる良いことがあったようでござるな!!」
「まあね」
鼻歌歌いながらレッスンの準備をする翠くん。
すると、いきなり南雲くんが私の手を掴んでレッスン室の外へと連れ出した。
「ちょ、何、何!?」
昨日のこともあって痛い。それに体育の時の怪我もまだ完治していない。
「どどどどどうしたんすか翠くん!!!!」
「さあ………後で話すって。」
「いや何かあれ絶対変なの食べたっすよ!?食べちゃいけないもん食べてるっすよ!?」
「ネガティブな翠くんより良いじゃん?」
南雲くんはアタフタとそういう問題じゃないとかブンブン掴んだ腕を感情のままに振り回す。
「本人に聞きなよ、何で私に聞くの」
「……………………」
彼はしばらく黙った後、それもそうっすね!とレッスン室へ戻っていった。
意気揚々翠くんに話しかけに行く南雲くん。
翠くんは少し微笑んで、南雲くんに耳打ちした。
「そうっすか!それは良かったっすね!!」
「うん」
南雲くんは納得したようで、いつも通りにもどった。私も気になったが、後で話してくれるならいいや。
「あんずさん」
おっとりまったりした声で、深海さんが私を呼ぶ。何だろうと思えば、案の定ビショビショ。
「深海さん、ちゃんと拭いて「ぼくにはよくわかりません」…………はい?」
私の言葉を遮り、どこか悲しげな顔で深海さんはそう語る。
何だかほうっておけないので、訳を話して少し席を外させてもらった。
…………ていうか私まだ何にもしてないんだけど……