第32章 大変なことになりました 伏見弓弦
「………あと、あまり抱きつかないでもらってもよろしいでしょうか?」
「え、あ、ごめん…」
パッと離れる。
そりゃそうだ。抱きつかれたら鬱陶しい。
「弓弦くん、この後……えっと、男子で枕投げとかするんだよね………わ、私も参加したいなー…なんて」
少しショックを受けつつも何とかそれを声に出す。修学旅行に一人部屋というのは寂しいから、どうしても参加したいのだけど。
「あんずさんは、女性でしょう」
やんわりと『駄目に決まってんだろふざけんな』的なオーラを出されて拒否られた。
おい泣くぞ
私泣くぞ
「………そっかあ、じゃあ大人しく寝るよ…」
「はい、ぐっすりお眠りください」
それだけ言って弓弦くんは部屋から出て行った。
「なーんちゃって」
彼を見送った後、ニヤリと笑った。
このまま寝るなんてあり得ない!!絶対枕投げに参戦してやるんだからっ!!
「……何でいるんですか」
「こっちのセリフばい……」
皆が売店に買い物に行った隙を突いてコッソリ忍び込んだ男子部屋の押し入れに、なぜか真冬さんがいた。
いやいや何してんの
「決まってるでしょう、枕投げに参戦するためです!」
「くだらなっ!?…………って、儂も似たようなもんさね……他人のことば言えんとに…」
「…真冬さんはどうしてここに?」
真っ暗な押し入れの中。相手の顔は見えない。でも………どこか寂しそうな顔をしてるんじゃないかって直感でわかった。
「儂は主と逆ばい。枕投げば参加したくなかと。」
「えぇ!?何でですか…!?」
「…………………知っての通り、儂は留年しとる」
そうして真冬さんは、私の質問に答えずなぜ留年したかを語り出した。
どうして今話すのか不思議だったが、聞かねばならぬ気がしたので黙っておいた。