第32章 大変なことになりました 伏見弓弦
最後に行ったのは湯豆腐屋さん。しかし買い物やらパフェやら、はしゃいでいた私は湯豆腐を食べ終わったら眠くなったのだ。
「あんずちゃん、寝たら駄目だよ!頑張って~!」
「お母さんあと五分……」
「僕お母さんじゃないよ!?」
寝ぼけてウトウトしていたら、とうとう遊木くんにもたれてしまった。
「ちょ、あんずちゃん!!」
「眠いの…………」
…私には、とんでもない秘密がある。それは……
寝ぼけると幼児退行するのだ。
「が、頑張って!あと旅館までだから!」
「や~!寝るぅ~!」
ギュッと遊木くんの制服を掴んで抱きついたのは覚えている。
そしてそのときゲラゲラ笑ってカメラを連写していた真冬さんのことも。
恐らく、その写真のことだろう。
「………あの、寝ぼけると幼児退行するっていうか何というか不可抗力で………許してくれないかな!?」
「無理な相談ですね」
「デスヨネ…」
こりゃやばい。
「うぉ~い!もう晩御飯だよ~!!」
突然、ドアがノックされた。声からして明星くんだろう。弓弦くんが私から離れてチッと舌打ちをする。
…………ん?舌打ち?弓弦くん!?
「もうちょっとでしたのに…」
ボソッと言ってるけど聞こえてるよ!?何がもうちょっと!?
「晩御飯だね~!すぐ行くっ!!」
そのすきに逃げた。後ろから来てる気配はあったが、追いかけているようではないのでホッとした。
「おーい、おーい」
真冬さんの声がする。ペチペチ頰を叩かれた。
「ご飯食べたら寝るとかガキのすることばい。頑張って起きんね。ほら、カラオケ大会始まっとるよ」
やたらドンチャンうるさいのはそのせいか。この大宴会場にはカラオケがあるんだっけ……いや、カラオケ大会でも何でも眠いのは眠い。
「やーだ眠ーい…」
「取りあえず、部屋まで運ぶけん…………って、起きとーと?」
そして、私の意識はすっかり落ちていった。