第30章 贖罪 紫之創
放課後。ライブまで、まだ2時間ほど余裕がある。夕方から夜にかけてのライブなので、開始は遅い。
楽屋にいるのは真白くんと紫之くんと私。集合時間まで30分ほど余裕があるから、他の二人はまだ来ていない。
「あんずって、ひなたと仲良いよな。」
「………そう?」
衣装に着替えた真白くんが、そう言った。
まあ………良い方かもしれない。
「何か、ひなたがあんずの固いバリアを軽々と飛び越えたみたいな感じ!」
「私のバリアが固いって?失礼な」
「いや、そういうことじゃないくて…」
じゃあどういう意味なの。ジリジリ詰め寄ると、真白くんは苦笑した。
「いや、あんずとひなたってもしかしたらお似合いかもなーって話。」
「………ひなたに失礼だよ」
真白くんは眉を下げてため息をついた。
「あんずに春はまだ早いか…」
「春は、毎年必ず来るよ?」
「………もういいよ。」
私は椅子から立ち上がった。そろそろ、あの子達の所へ行った方がいいだろう。
「どこに行くんですか?」
それまで黙って話を聞いていた紫之くんが尋ねてきたので適当に誤魔化した。
「打ち合わせ」
「そうですか、頑張ってくださいね。」
彼の純粋な笑顔には、弱い。少し顔を逸らして逃げるように去った。
「お久しぶり」
彼女達は見下すように私を見る。
こんな視線も慣れっこだ。
「何の用でしょう?」
「ふん、私達があんたのこと何て思ってるかわかってるよね!?」
「調べさせてもらったの、あんたのその変な足のこと!」
一人の女の子がそう言うと、一斉に全員が甲高い声で笑い出した。とてもうるさい。
「鉄の板の下敷きになるってどんくさっ!!それに、勝手に入り込んだ潰れた工場でなんて!!」
「とんだ災難ねえ!疫病神でもついてるんじゃないの?」
私はため息をついた。やれやれ、そろそろトドメを刺してやろうか。
「…………後ろ」
「は?そんなことに……」
振り返った彼女達が青くなる。そこにいたのは、椚先生だった。
何かあれば言うように言われていたので、事前に伝えておいたのだ。
「………後はお願いします」
ペコリと頭を下げる。
「…………………大丈夫ですか?」
先生は優しい。私は黙って頷いた。