第30章 贖罪 紫之創
「…私は、あのときから笑えないの。笑いたいのに、笑えないの。やっぱり、右足のことはすごく悲しいから……馬鹿にされるし、不便だし。
でも紫之くんを責めるのは嫌。笑えない私を見て傷つく彼を見るのは嫌。」
正直に話すと、ひなたはうんうんと頷く。
「じゃあ、やっぱり笑ったら良いんじゃない?」
「………話を聞いてなかったの?私は…」
「笑わないあんずちゃんを見て紫之くんが傷つくなら、あんずちゃんが笑えば良いんだよ」
何だか無理やりな意見な気がする。
「変だよ、そんなの」
思わず笑ってしまった。いつもなら絶対笑わないのに、ひなたは本当に言葉巧みに私を誘導する。
「……………………………嘘」
ひなたが放心したように呟くそしてガバッと肩を掴んできた。
「もう一回!!ねえもう一回!!!」
「ひ、ひなた、や、やめて、皆、見て、る!」
ガックンガックン揺らしてくるので少し気持ち悪くなった。
何だ何だと群がる皆に、ひなたが言ってしまう。
「あんずちゃんが笑ったよ皆!!!」
「な、何だと……!?」
「まじかよ…」
教室がどよめく。本当にやめてくれ。
「………あんずが、笑った…」
小さな弱々しい声だけど、確かに届いた。紫之くんだった。
「ひなた、どんな顔だった!?」
「写メは!?」
「めっちゃめちゃ可愛かったよ!待ってて皆、俺が似顔絵にしてみせるっ……!」
「ひなた、それはやめて。本当、やめて………」
穴があったら入りたい。そして誰か埋めてほしい。
「あんずが笑ったとこなんて見たことないけど、本当に笑ったのか?」
「わお、疑ってるの?本当の本当だって……。ね?」
話しをふられたが恥ずかしいので無視しておいた。