第25章 ありし日の僕ら 仁兎なずな
「だから、あんずは女の子だって…小学校の頃、よく俺が教えてた。それでも理解しないから思い切って……
大きくなったら俺と結婚してくれって言ったんだけど、覚えてないか?」
…………はい?
「男の子と女の子しか日本では結婚できないだろ?だから、小さい俺はそう言ったんだと思う。……でも今思えば、笑っちゃうよな。」
なずなくんは照れたように笑う。僕はそんな記憶ちっともないのに。
「あの、僕は今自分を男の子だとは思ってませんよ?」
「だろうな…あんずがスカートはいてるのは初めて見た。
でもまぁ………あの言葉、わりと本気だったりするけど…」
後半は、聞き取れなかった。聞き返そうとしたとき、私達の間に蛍のような光が出現した。
『ムカエニキタ』
「……………帰る、のか」
なずなくんが少しシュンとした。
どうやら妖精が連れて帰ってくれるらしい。
「ねぇ、なずなくん」
「……?」
「…………僕、今日何でここに来たのか分かって気がする」
「…………俺も、何で過去に行ったのか…やっとわかったよ」
「…………じゃあねなずなくん」
「…………バイバイ」
彼が、切なげに手を振る。その顔を見たあとに、私は妖精の放つ光に包まれた。
『タノシカッタ?』
光の中で、妖精の声がした。
「……ねぇ妖精さん。あなたはどうして……こんなことをするの?」
『トドカナイオモイヲトドケルタメサ』
「………?」
真意を尋ねようとしたが、思い叶わず………そのまま光は消え去った。
私は扉の取っ手を握ったまま立ち尽くしていた。そうか、過去に行く直前に戻ったんだ。
扉を開けると、外にはなずなくんが立っていた。
「…………遅いし、送る」
まだ拗ねているのか、彼はそっぽを向いたままそう言った
「ねぇなずなくん。妖精っているのね。僕びっくりしちゃいました。」
「え!?会ったのか!?妖精に!?」
どうやらなずなくん、私が過去にいた記憶はないらしい。
私は少し残念に思いながら、過去でのことを話した。