第25章 ありし日の僕ら 仁兎なずな
「もう、僕が悪かったから機嫌なおしてくださいよ~?」
急に小学校の時に使っていた一人称を使ったので、なずなくんは勢いよく振り向いた。
「何だ?頑張って私にしたんだろ?」
「極力私を使いたいんですけど、どうしても僕がしっくりくるんです。」
小学校の頃は、自分を男の子かなんかと勘違いしていたようで…あまり覚えていないが、一人称が僕だった。
「……………さっきの話、俺は本当に妖精を信じてるんだ。」
「ええ?またその話?僕はそんな馬鹿げた妖精なんて信じないよーだ。」
おどけてそう言ったが、なずなくんの顔は真剣そのものだった。
「妖精は、本当にいるんだからな。」
「わかったわかった~。でも、妖精ってなずなくんのことじゃないの?月永先輩がなずなくんのこと、妖精みたいって言ってましたよ?」
「…………信じないなら良い。」
なずなくんは怒ったようで、それから口を聞いてくれなかった。そのうえ、そのまま帰って行ったのだ。
………あり得ない!!居残り練習に……ほとんどお喋りしてただけどったけど、付き合ってあげたのに!
『…………カワイソ~、ダイジョウブ?』
と、心の中で叫んでいると…………聞き覚えのない声がして、目の前をキラキラした何かが飛んでいる。
蛍のような光にしか見えないが、それから声が聞こえてきたようだった。
『ボクハヨウセイダヨ。』
………ほんの数秒前まで、なずなくんを馬鹿にしていた僕が恥ずかしい。
こんなの見たら本物だと思うしかないじゃないか。
「え、あの、初めまして…。僕、あんずです……」
『バイバ~イ』
言葉が通じないのだろうか、妖精(それらしきもの)はそのまま飛び去って……消えてしまった。
「………いやぁ、不思議な体験だった。明日あたり月永先輩とかに話そうかな。」
と、無理やり自分を奮い立たせてレッスン室の扉を開けた。
扉を開けると、そこには…ちょうど中に入ろうとしてたのか…
人がいた。
「………!」
何も言わないが、顔が驚いたと言っている。そして私も驚いている。
そこにいたのは、なずなくん。
それも、一年前のなずなくん。