第25章 ありし日の僕ら 仁兎なずな
レッスンも終わり、一年生達が帰って行った。なずなくんは居残り練習がしたいようなので付き合うことにした。
「う~ん、どうもここがしっくりこないな~?」
「振り付け変えますか?くるくるじゃ~んぷ、みたいな。」
私は二回回って飛んでみた。着地に失敗してこけそうになったのを、なずなくんが支えてくれる。
「おいおい、らいじょうぶか~?でも、そのアイディアはいただきだな!」
少し恥ずかしい思いをしたが認めてもらえたようだ。
とりあえず一安心。
「あ、そうだあんず」
なずなくんは踊りながら器用にも話しかけてきた。
「お前…その………好きなヤツとかいるの?」
「ママさんとか好きですけど」
「え!?」
なずなくんが思いっ切りこけた。さすがに支えてはあげられなかったので、ケガをしてないか確かめるために駆け寄った。
「大丈夫ですか?ケガは?」
「あ、いや、その…………さっきの、こと……」
なずなくんはどこか青ざめた顔をしていた。吐き気もするのか、口元を抑えている。
「ママさんのことですか?私の押しはママさんです!」
「………押し?」
「え?好きなアイドルの話…………ですよね?」
なずなくんの顔色がだんだん良くなっていった。そして、うにゅうううぅ…可愛らしいため息をついた。
「こけて損した…」
「え?」
「何でもにゃいっ!!」
なずなくんはほっぺたを膨らませて顔を背けてしまった。しかしすぐに、あ!と声を出して振り返った。
「お前、妖精って知ってるか?」
「あぁ、七不思議の」
「…………妖精には、気をつけろよ。」
「…………まさか、信じてるんですか…なずなくん?」
私がいぶかしんでいると、彼は違う違うと首を振った。
「もう、七不思議なんて迷信なんですから…」
「だかりゃ信じてないって言ってるらろ~!?」
なずなくんは今度こそそっぽを向いてしまった。