第24章 無自覚は苦しい 乙狩アドニス
これは、私があとから聞いた話だ。直接の場にいたわけではないから、少し間違った見解かもしれない。
「嬢ちゃんは……どうしたんじゃろう?」
朔間先輩がそう言うのも当然。タオルを選択しに行ったまま、1時間は帰ってこなかったのだから。洗って干すだけだし、すぐ帰ってこれるのだが。
この時の私は少し面倒くさいことになっていた。
「つーか………アドニス、お前本当に…あんずのこと何とも思わねーのか?」
「何のことだ?」
「あんずちゃんがヤンキーってことでしょ?」
羽風先輩が二年生二人の会話に割って入る。朔間先輩は、やはり昼間だからグダッとしてしまって会話を聞いているだけだったらしい。
「それに関して、昨日はあんずからがっかりしたかと聞かれた。しかし、大神が教えてくれていたのでがっかりすることもなかった。」
「んじゃ、初めて俺様から聞いたときは?」
「俺の気持ちは変わらない」
何とも、嬉しいことを言ってくれるものだ。これを聞いたとき、泣くかと思った。
「ただ、ケンカをしたと聞けば不安になる。ケガをしてほしくない。守れなかったと、心が苦しくなる。」
「アドニスくんらしいね~。ま、君があんずちゃんを嫌うとは思えないけど!」
羽風先輩がおちゃらけてアドニスくんの背中を叩く。やめてくれ、とアドニスくんは鬱陶しそうに手を振った。
「ていうか、何で晃牙くんはあんずちゃんのことをそんなに気にするの?」
「あ?約束したしからだよ。」
そう………大神は、忘れていなかった。
コーガとウチの、最初で最後の約束を。
「あん時から、学校に来なくなったあんずとよぉ……卒業式の日に、会ったんだ。つっても、アイツは卒業式に来てなかったけどな。
帰り道に、ひょっこり現れてよ………」
随分と鮮明に覚えていたものだ。私なんか、卒業式の日に会ったことしか覚えてなかったのに。