第24章 無自覚は苦しい 乙狩アドニス
「あんずは、俺が思っている以上に強いようだな………。」
彼はどこか寂しげな顔をしていた。
「……アドニスくんが思っている以上にか弱いですよー?」
咄嗟にそう言ってしまったが、その後に少し恥ずかしくなった。彼から目をそらし、空っぽになったパフェの器を見つめた。
「………なら、俺が守ろう」
アドニスくんがソッと私を抱き寄せた。
…………きっと彼は素なのだろうが、急接近するのは初めてなので心臓に悪い。
それに
「すっごく、すっごく嬉しいけど……すっごく苦しい………ッ!!!」
「す、すまない!!!」
アドニスくんはバッと私から身を離した。……君がずっと気にしていたのはこういうことか。
それならばごめん。抱きしめるときはもっと力を抜いてください…!!
「今日はどうしたの?珍しいことばかりだね。」
「………わ、笑わないで欲しい」
アドニスくんは言いにくそうにボソボソと呟いた。
「…あんずと大神が仲良さそうにしていたから、つい…………や、妬いてしまった……」
褐色の肌を赤く染め、彼はテーブルに肘をついて顔を覆った。
珍しい。耳まで真っ赤だ。
「う、うん?気にしてないよ?何か……ごめんね。」
「………うむ」
何だか気まずい放課後デートになってしまった。
アドニスくんとの距離は縮まるようで縮まらない。
喫茶店からアドニスくんと別れた。気まずい雰囲気だったし、一緒になんかいられなかった。
商店街を歩いていると、店と店の間の狭い路地裏から不穏な音が…
バキッとか、ドカッとか……ケンカの音だ。この音は、よく知ってる。
素通りしようとしたら………
「あんずじゃん!!!」
ケンカの主に声をかけられた。
「ちょーどよかった!今コイツから金巻き上げてんの!一緒にやってくんね?」
「悪いけど……」
いつしかの金属バットの子達。ケンカ仲間…といったらおかしいが、まぁそんな関係だった。
断ろうとして、思わず目を見開いた。だって、彼女たちが言ってたコイツは……
「て………と…ら…………くん」
「…………姉御?」
グッタリ横たわった鉄虎くんだった。