第24章 無自覚は苦しい 乙狩アドニス
元々アドニスくんは喋る人ではないから、沈黙が続いた。私も黙々と食べていたので、喋ることもなかった。
しかし、パフェを半分くらい食べたところで少々気になっていたことを思い切って尋ねてみた。
「……私の中学のときのこと…」
アドニスくんは首だけ動かして表情も変えずにこちらを見た。とっくにパフェは食べ終わっていたようだ。
「がっかりした?」
愚問だったろうか。彼女が元ヤンなら幻滅するだろう。私なら別れ話を持ち出すね、うん。というかアドニスくんはそういうつもりで私をここに連れてきたのではなかろうか。
「…………別に、元々知っていた」
「え…?」
「大神が、教えてくれた
『アイツのそういうこと知った上で付き合うなら問題ねーよ。』
………そう言われた。だから、がっかりなどしていない。」
「………そうか、大神が…」
何でそういうことをしたのかよく分からないが、彼なりに気をまわしてくれたことは分かった。
「あんずはどうして……中学の頃に……」
「ヤンキーだったか?」
言いにくそうな彼のかわりに言ってやった。とりあえずアイスがとけないようにそれだけでも食べねば。
アイスを全部食べて、考えこんだ。
「どうしてか…。アドニスくんと、同じだよ。」
「俺と?」
「強くなりたかったの」
今思えば、なんと自分勝手だっただろう。それに、馬鹿げた理由だ。
「………小学校の頃、私……背が低かったから、いじめられてたの。中学校になったとき、見返してやるって思った結果がヤンキーってこと。
そうしたら…いじめられることはなくなったけど、誰もいなくなったし。私は一人になっちゃったんだ。」
ケンカばっかでも…一人になっても、それが強さだと思っていた。誰よりも強くたくましくありたかった。
「もう、ホント最悪な3年間で抹消したい黒歴史って思ってたけど……
案外、そんなことなかった。この学院に来て…大神と再会して、ちょっと中学の時のこと思い出すことが多くなって。
ずっと一人って思ってたけど、そんなこともなかったの。大神って友達もいたし、私のことを諦めないでくれた親もいた。
だから、楽しかったなぁって。」
アドニスくんは、話している間ずっと優しく頷いてくれていた。
結局、どうでもいいことまで話してしまった。