第24章 無自覚は苦しい 乙狩アドニス
「まぁ、喋ったのはあん時だけだ。そっからは何にも喋ってねー。つーか、あんずが授業に出なくなったんだよ。」
「いやぁ…その時は本当やさぐれてて…親が更生させなきゃっ!って…色々私を連れ回しててさ。学校自体行ってなかったなぁ。」
何だかサイテーな思い出だと思っていたが、こうして思い返すと懐かしい。
というか、大神………コーガと喋ったのは、あの時だけじゃないんだけどな。すっかり忘れてるなぁ。
「え?え?あんずちゃん、金属バット持ってる相手に素手で立ち向かったの?そして勝ったの?」
「あ~!やめやめ!こんな話はやめてレッスンしましょう!?」
しつこく聞いてくる羽風先輩を押し返してレッスンを再開させた。次のライブの曲を一通り通して、意見を交流して………レッスンは終了した。
レッスンを終えるといつもはまっすぐに家に帰るアドニスくんが……私を商店街の喫茶店に誘ってきた。
断る理由もないので、言われるがままついていった。
「こんな所に喫茶店があるなんて知らなかったよ。」
そんな私の前にはフルーツパフェ。アドニスくんが定員さんにフルーツパフェですね、と言われて勝手に持ってこられたものだ。
どうやらここに来る度にフルーツパフェばかり食べているようだ。
「いつか、ANDEADの皆で来たいと思っている」
「あぁ、それいいね。羽風先輩とか甘いの大好きだし。ていうかアドニスくん、何で私の隣に座ってるの?」
この時間帯は空いているらしく、好きなところに座ってくださいと言われたので二人しかいないのに堂々と四人席に座っている。
こういうときって、普通向き合って座らないだろうか。
アドニスくんは……私をとんでもなくか弱い小さきものだと思っているようだから、自分にその気がなくても傷つけてしまうことを恐れて私に近づいてくることはなかった。
最低1メートルだか30センチだか、そのくらい私達の間は開いていたと思う。
隣に座られたらその開いていた領域はなくなる。
珍しいね、と笑いかけてパフェを食べる。ここのパフェ美味しいなぁ。常連になりたい。UNDEADの皆と来るのも良いけど、アドニスくんともまた来たい。