第21章 大正歌劇に迷い込む 守沢千秋
……夢から覚めて、ただ考えた。
本当に、どうしたら良いんだろう。
「あんず、よく眠れたか?」
「…ノックくらいしてください。」
「の、のっく?」
あぁ、いかんいかん。どうしても横文字が出てしまう。
「めちゃくちゃ眠れましたよ。着替えるから出て行ってくださいね。」
「あ、あぁすまない…」
守沢さんはイソイソと出て行った。
ふぅ、とため息をついて朝の準備にとりかかった。
掃除して、洗濯して、ご飯作って………
時折警察官の人達としゃべって休憩して。事件が起きれば慌ただしくなって。
何だか……ほんの少ししかここにいないのに、元々私はここにいたように錯覚してしまう。
もうこれが夢ではないことは認めよう。
しかし、いつまでもこれでは困るのだ。もう夜だ。今日も終わってしまう。
「………守沢さんも、前の私の方が良いですよね…」
「ん?どうした?」
「……もし、親が決めた結婚相手がめっちゃ大金くれるって言ったりしたらどうしちゃいます?」
守沢さんはハッとした顔になった。
「やはり……気にしていたのか?ッというか、思い出したのか!?」
「だ、だから!!ほんの少しですっ!!」
あの子が気にしていたことが本当なら……と確かめようとしただけなのに、何だか大事になってきた。
「俺は本当にお前を愛しているんだ!」
「そ、そりゃあどうも………」
私からはありがとうございますとは言えない。
しかし安心した。これなら元に戻ってもあの子が気にすることはないだろう。
私は守沢さんを適当にやり過ごし、部屋に戻った。
何だか……本当に安心してしまい、あの子の日記を取り出して日記の続きに
お幸せに!!
と使い慣れない筆と墨で大きく書いておいた。