第21章 大正歌劇に迷い込む 守沢千秋
「あんず、倒れた上に目が覚めたら様子が変とは本当か!?」
「いやそれ私に聞かれましても……守沢さん」
私の肩を掴んだのは守沢さん。何だ、やっぱり夢か。夢の中で痛くないなんて迷信だったんだ。
「も、守沢さんっ……!?」
ガーンと効果音が聞こえてきそうなくらい彼は落ち込んでいた。私の肩から手を離すとガックリとうなだれた。
そんな彼に続いて先程の2人がやって来た。
「はぁ、置いてかないでくださいよ!全く姉御のことになるとすぐこうなるんだから…」
「…あの、守沢さん今すっごいしょぼくれてるんですけど」
「「守沢さん!?」」
鬼龍さんと南雲くんがハモった。
「ど、どうしたんだ嬢ちゃん…。自分の年17って言うわコイツのこと守沢さんって言うわ……
それにいつもなら俺らのこと鬼龍様、南雲様って呼ぶのによ…」
「ええ!?鬼龍様南雲様!?」
「隊長のことなんか千秋様って呼んでたんすよ!?」
「えぇ……ナイナイ絶対ナイ」
両手を振って全否定すると守沢さんは更に落ち込んだ。
「じゃあ私何歳なんですか?」
「23だ」
………………はい?
「鉄が22、俺と守沢が24だ。」
………あれ、そう言えば皆ちょっとたくましい顔つきかも。
私は未来に来たの?でも袴着てるし……
「あの、今何時代ですか?」
「マジっすか姉御……大正っすよ」
「本当に大丈夫か?倒れたときに頭打ったのかもな…。おい守沢、しょげてないで医者呼んでこい。」
地面にめり込む勢いでうなだれていた守沢さんは、慌てて医者を呼びに走って行った。
「………俺らの名前とかは覚えてるんすよね?」
「え?あ、うん……そうね?」
覚えてるというか………君達は私の知る君達なのか?
「17歳からの記憶がないってことか?」
「じゃあ、17歳までは!?」
期待いっぱいの目で見られたが、ここでの記憶は何一つない。
あるのは、平凡な平成時代の記憶である。