第20章 鬼ごっこ 逆先夏目
「ここには誰もいないよ~?さぁ大人しく出て来なさぁい!!!」
ベタベタであるが人気のない体育館裏。バスケ部はいない……というか、もうとっくに部活は終わっている。
吸血鬼も舞い上がる夜だ。
「…………………」
体育館の陰からノソノソと出てきたのはあんずが見たこともない男………というか、普通科の男子だった。
「あっれれぇ?い~けないんだぞ~!普通科の子がアイドル科の校舎に入っちゃい~けないんだぞ~!?」
「…わかってますって。ていうか、そっちこそわかってます?」
「何がぁ?」
「夜に男と二人は感心しませんよ。」
「だいじょぶだいじょぶ~。私、たくましいからぁ。」
全く怯えないあんずにストーカーは度肝を抜かれた。ずっとストーキングしていたが、やはり底が知れない。
「………………さて、ストーキングしてた訳を聞かせてもらおうかぁ?きっと、私が好きで好きでしょうがない~って理由じゃないんでしょお?」
「ご名答ですね。あなたを好きなのは私ではなく普通科の人間ですよ。あなたの写真が高額で売れちゃうんです。」
「はい白状しましたぁ~!聞いてたかなぁ~?」
あんずは右手に隠し持っていた携帯を掲げて見せた。
『………話は聞きました。声で人物も特定できましたので、また後日話しましょう。今日は遅いですから……もう帰りなさい。』
携帯から教師である椚の声がそう聞こえ、やがて電話は切れたようだった。目の前の男子生徒は顔が一気に青ざめていった。
「………してやられましたね。」
「言ったでしょお?私たくましいの~!」
「じゃあ、これはどうですかね」
素早く距離を詰められて、携帯を掲げていた右手を掴まれた。どうやら携帯を取ろうとしているらしい。
「うえぇ~っ!!!!何するの、やめてやめて~っ!!」
「もう一回かけ直して冗談って言え!!!」
丁寧だった口調が荒々しくなったと思えば、あんずの頰をひっぱたいた。
突然の衝撃に、転倒しそうになったあんずを………誰かが支えていた。
「…………僕の彼女に何をしてるのかナ…!?」
ようやくあんずを見つけ出した、夏目だった。