第18章 ガラクタドールガール 斎宮宗
「僕も少し興味があってね。」
と、言われて連れてこられたのは手芸部の部室。どうやら部長さんらしい。
私はクロワッサンを買い損ねたので変わりにハムサンドを買った。正直、あんまり好きではないのだけれど。
もぐもぐとパンを部室内で頬張る。
「…あの」
「何だね」
「どうしてお人形様を持ち歩きなさるのですか…?」
純粋な気持ちで聞いてみた。そういうご趣味なのだと思うけど。
「あぁ、彼女はマドモワゼル。」
「初めまして、伏見あんずちゃんね?」
……………………あ、そっちのご趣味でございましたか。
深くは追求しまい。
「初めまして、マドモワゼルさん。姫宮家の女執事、伏見あんずでございます。」
誠心誠意を込めて深々とお辞儀をする。
「…………姫宮家?」
「姫宮って確か、fineの1年生の子ね?」
「坊ちゃまをご存知でいらしたのですね!私と弓弦くんは、ずっと姫宮家に仕えております。それはもう、坊ちゃまと妹君のお嬢様が愛しくて愛しくて…。
ホント、たまに嫌になることもありますわ。それでもお側にいることが私達のような人間の喜びですから!」
ついつい嬉しくてテンションが上がってしまった。こんなに話すのは、この学院に来て初めてかもしれない。
「弓弦くんも……fineの子ね?」
「ふん!fineという名前を聞くだけで忌々しい……!!まぁ、君には関係のないことだけどね!」
………笑わない、笑っちゃ駄目よ私。耐えて。日々鍛えている営業スマイルで耐えるのよ。
「噂の転校生とやらがどんな者か確かめたかったが、確かめるまでもなさそうだな。」
「…………そろそろ、私教室に…」
「何だね…先程までペラペラと饒舌だったくせに、急にオドオドしだして。」
………やはり、学校には慣れない。
姫宮の家人達は好きだ。だからこそあんなに話せたのかもしれない。
でも学校は……。どうしても、思いだしてしまうから。
私には耐えられない。
どんなに営業スマイルでいたって、私は人間だから…………泣いてしまう。
どうかこの夢ノ咲では平和な日々を過ごせますように。