第16章 騎士たるもの 月永レオ
いよいよ、合同ライブ当日がやって来た。手鞠野さんはあの時の恐ろしい顔はどうしたのだと疑うくらい…………『普通』を演じていた。
「…頑張ってくださいね。」
ステージの袖で、皆に声をかけた。皆は声を出さずに、力強く頷いてくれた。
何事もなく、成功しますように。
ライブの最後の曲が終わり、アンコールも終わり………………無事、終了した。
「あれ?もう終わり?俺はまだまだいけるのに~?」
「本当夜は元気よね凛月ちゃん……私は駄目よ。夜更かしはお肌に悪いもの~!」
「はいはい、くっちゃべってないで撤収するよ~?」
ライブの熱が冷めないのか、皆わいきゃいはしゃいでいる。
手鞠野さんもその中に加わっていた。
………もしかして、考えを改めてくれたのだろうか。
とか思っていた、が…。
皆が着がえ終わってから…手鞠野さんはステージの片付けをしている私のところにやって来た。チラホラと業者の人もいるのだが、その人達からは死角の……ステージ裏の片付けをしていたのであの時と同じ2人きりになってしまった。
「………誰にも喋らなかったか?」
「っ言ってません。」
「そう身構えるなよ。……ちょっと、話しに来ただけだ。」
手鞠野さんはせかせか働く私の手をグッと掴み座らせた。その隣に手鞠野さん自身も座る。
「………2年前にな、俺が兄さんって呼んで慕ってた先輩がいたんだ。」
いきなり、何の話しだろうか…。
「俺が1年の時に3年でな?兄さんはそら良い人で…俺にも良くしてくれてた。
俺、根っこはこんなんだからさ……。色々心配してくれてたんだ。」
2年前を思いだしているのか、彼の口調は優しい。しかし次の瞬間、憤怒の表情になった。
「…ドリフェスが出来る前、ある企画があったんだ。今日みたいな姉妹校の代表と夢ノ咲のユニットが合同ライブをするっての。
あの時、兄さんは………踏み台にされていた。夢ノ咲の奴らは兄さんに難しいダンスやパフォーマンスばっかりやらせて………失敗したらステージ上で兄さんを笑ってた!」
手鞠野さんの手が震えている。………それほど、その兄さんを慕っていたのだろう。