第11章 今日こそは私とデートしてください ー羽風薫ー
レオがいたのは軽音部の部室の前の廊下。レオは廊下の真ん中でただボオッと座っているのだった。
「レオー」
「…あぁ、あんずか…」
レオはシュンとして言った。
「インスピレーションがわかない………」
「えぇっと、ラブソングでしょ。これ、借りてきたんだけど…」
レオは黙って首を振る。
「ヤダ」
「え…」
「ヤダヤダヤダーーーーッ!もっと宇宙規模なことがしたいっ!ラブソングでもないっ!何でもない……!今まで誰も作ったことがないそんな曲っ…!」
レオはわめいて紙を巻き散らかした。
「ちょ、落ち着いて!?ここ軽音部の部室の前だよっ!」
「うあぁぁぁーっ!あんず、助けてっ!俺は、俺はどうしたら良いっ!?」
「わかんないよっ!レオのことはレオにしかわかんないでしょ!?」
「俺は世界を変えたいっ!宇宙に届くくらいの曲がいいっ!なのに、インスピレーションがわいてこないーーっ!!!インスピレーションはそこにあるんだっ!
でもきっかけがないっ!見つけるきっかけがないっ!!」
「わかった、わかったから落ち着いて!?」
「あんずに俺の何が分かるんだーーっ!!」
根も葉もないことを言ってレオは私の腕をはねのける。
レオの暴走は止まらず、油性ペンを持ってぬあーーっ!と雄叫びを上げる。
「書かせろあんずっ!」
「え、待って私に書く気!?紙あるじゃんっ!?」
理不尽だが、逃げるしかない。私はクルッと体の向きを反転させた。
「インスピレーションーーーーッ!」
「来るなーっ!こっち来るなーっ!?」
さすがにこれだけ騒げば軽音部の部室まで声が聞こえていたみたいで、零さんがヨロヨロしながらドアを開けた。
「何じゃ何じゃ…」
「キャーッこしょばいっ!!」
「どこだーっ!インスピレーションーーーーッ!!」
私の腕にサラサラと五線譜をかいてわめくレオ。零さんは静かに扉を閉めた。