第1章 バレンタインデー【ブン太/跡部/岳人】
【テニスの王子様/丸井ブン太編】
マネージャーであり俺の彼女である彩條悠鬼が、放課後の部活が始まっても中々姿を見せない。
俺は気になってコート中を見渡す。
そんな俺に気付いたジャッカルが、「彩條は調理室にいた」と教えてくれた。
真田にバレない様に静かに練習から抜け出した俺は、調理室へと捜しに向かう。
「悠鬼~、居るかー?」
ガラッと戸を開けて調理室を覗いたが、中には誰も居ない様子。
しかし、室内はチョコの甘ったるい匂いが充満し、荷物も置いてある。
持ち物を見て悠鬼の物だと分かった俺だけど、テーブルに乗っている物を見てムスっと不機嫌になる。
「真田くん、赤也くん、桑原くん……アイツ、他の男にもやる気か?」
そこには綺麗にラッピングされたチョコチップ入りの複数のカップケーキが置かれていた。
レギュラー陣全員の名前が書かれている。
今日はバレンタインデー。
俺も他の女子から沢山貰ったが、彼女が他の男にチョコをやるのは面白くないだろい?
だから……
「俺が全部食ってやる」
ムカついた俺は雑にラッピングを破くと、パクパクカップケーキを食べてやる。
『あ、ブン太!部活終わっ!?……ちょっと!何食べてっ』
「ん?……カップケーキ」
黙々とカップケーキを食べていると、漸く悠鬼が帰って来た。
優しく微笑みながら近付いて来た彼女だが、俺の目の前にあるカップケーキや既に食べ終えた包みを見て驚いた顔を見せる。
『それはブン太のじゃない!』
「知ってるよ、だから俺が食うの」
慌てて俺から残りを奪い返そうとした悠鬼だが、それをヒョイっと避けて取られない様に死守する。
俺の言葉の意味が分からないのか、悠鬼は「何で?」と不思議そうに首を傾げている。
「何ではこっちの台詞だろい?……何で他の男にまでやる必要があるんだよ」
『だっていつもお世話になってるし……お礼?』
「世話してんのは、悠鬼の方だろい?……アイツ等にはやらなくて良いって」
『でも……』