第6章 Stay Home(黄瀬涼太)
「みわ」
「ん……っ、は、涼太……おめでとう……」
くしゃりと触れた髪は柔らかくて、胸板は固くて、涼太の匂いしかしなくて、重なった唇は熱くて……五感が全て、涼太に支配される。
「ありがと、みわ」
耳が溶けてしまいそうだ。
"母親"ではなく、私の……黄瀬みわの存在を認めて貰えているんだという安心感。
好き。大好き。
気持ちが溢れて、止められない。
「生まれてきてくれて、そばに居てくれて、ありがとう、涼太……」
涼太のお誕生日だというのに、貰ってばっかりじゃない。
情けないことに、涙まで出てきた。
服の裾から侵入してくる大きな手を、止められない。
触れて欲しい。一番、奥まで。
続く口付けに、ぼんやりとした頭。
次に耳に届いて来たのは……
「ママぁ〜……」
その声に、文字通り飛び起きた。
私に覆い被さっていた涼太も同じだ。
言葉を交わす暇もないまま、ふたりで声の主の元へ走る。
「目が覚めたっスか、おはよ」
「お腹空いちゃったかな」
物凄い切り替えの早さに、涼太と目を合わせて笑った。
この小さい生き物に、大人ふたりがいつも翻弄されているのがなんだかおかしくて。
「残念だけど、ちょいお預けっスね」
耳元で囁かれた言葉で簡単に熱くなる頬。
身体の中で燻る熱がなかなか引かぬまま、キッチンで我が子の夕食を温め始めた。
ダイニングでは、料理を待つ息子を涼太が見守ってくれている。
いつもの風景だ。
こういう状況になって、気付かされた。
今まで当たり前だったことが、どれだけ貴重で尊いものだったのかって。
日常とはこんなにも脆いものだったのかって。
壊れてしまったものを、失われてしまったものを当たり前に戻す事は、もう出来ないんだって。
「涼太もスープ、もう少し飲む?」
「お、いいスね。もらおっかな」
だから、今この時間を大切にしなきゃ。
それは、刹那的なことじゃなくて、未来を守るために。
愛するひとたちとこれからも、生きていくために。
HappyBirthday,RYOTA♡