第5章 Additional happiness……?(黄瀬涼太)
窓の外に、雲がかかっていない月が見える。
梅雨入りしたというのに、それを感じさせない空だ。
「ふーっ、さすがに疲れたっスね」
ダイニングテーブルへと戻って来た涼太は、大きく深呼吸をした。
今日は久しぶりに早く帰って来れたのに、息子とのお風呂も寝かし付けもしてくれると言って、私は随分とゆっくりさせて貰ってしまった。
今日6月18日は、涼太が主役の日なのに。
「ごめんね、疲れてるのに」
「なんで謝るんスか、オレの子なのに」
「そう、だけど……」
「まさか、オレの子じゃないなんて……」
「えっ!?」
涼太の発言に、目玉が転げ落ちそうなくらい驚いてしまった。
涼太は、そんな私を見て盛大に吹き出す。
「ぶはっ、冗談っスよ。みわがんな事するワケないっしょ」
「び、びっくりした……」
父親が涼太以外の訳がない。
だって、今でも覚えているもの。何も纏っていない彼を受け入れて、放たれた熱を身体の奥で受け止めた事を……。
「みわ、顔が真っ赤なんスけど」
「えっ、あか、い!? そ、そんなことないよ全く!!」
顔を崩して笑っている姿は、高校時代のそれと全然変わらない。
そして多分、私が思っていることもお見通しなんだろう。
涼太には、ずっとずっと幸せな気持ちと時間を貰っている。
その一部すらもお返し出来ていなくて、いつも申し訳ない気持ちになるんだ。
涼太は優しいから、「みわからも貰っている」って、ことあるごとに言ってくれるのだけれど。
「んー、いい匂い。いただきます」
「はい、召し上がれ」
夕食は家族三人で食べたので、今は大人の時間。
涼太の好きなワインに、オニオングラタンスープとおつまみを数品。
スープを口にした後、ピックに刺さった生ハムをひょいと口に運んだ。
一緒に住むようになったら、とか、付き合いが長くなれば、とか、結婚したら、とか、子どもが出来たら、とか、夫への気持ちの変化について色々な事情を聞くけれども、私の気持ちはそのどれとも一致しない。
確かに、学生時代お付き合いしていた頃の気持ちと同じかと言われると、違う種類のものだと思う。
でも、このひとが大好きで、愛しくて、ずっと一緒に居たい気持ちには全く変わりがなかった。