第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
「何、紫原さん、もう1回言って」
「そもそもそれ、紫原さんとかキモいし~!」
キモい!?
キモいって何!?
「だっ、だって、名前で呼ぶ間柄じゃないじゃん! そういう関係じゃないじゃん!」
そう、そういう関係でもないのに簡単に股を開いた私に呆れたんだろう。
以前、好意を抱いてくれていたなら余計に、こんな尻軽女と幻滅したんだろうと思った。
「……ホテルに戻ったらもうみわちんはひとりでチェックアウトしたって聞いて、もう俺には会いたくないんだろうって思った」
それなのに、紫原さんの口から出る言葉は、私を映した鏡みたいで。
「そりゃそうだよね~、弱ってるみわちんに付け込んだのは俺だし。諦めようって、そう思ってたところに、なんでいんの」
「違うよ……紫原さんの優しさに甘えたのは、私」
ぐいと更に腕を引かれて、顔が近付く。
逆光なんて関係ないくらいの距離で、綺麗な瞳が私を捉えた。
「みわ」
甘いキャラメルみたいな声が私の名を呼んで、続いて耳元で囁かれたその言葉は……
アスファルトが、昨晩の雨の力を借りてきらきらと輝いている。
雨が、好きになれそうだ。
end. ……Happy Happy Birthday♡