第1章 Happy……Birthday☆(黄瀬涼太)
「ん……」
呑気に嫁のお腹の中の息子と話していると、みわは軽く身じろぎ、ゆっくりと瞼を開けた。
「ごめん、起こしちゃったっスね」
「ううん……ごめんなさい、寝ちゃってた」
肘掛けに手をついて、ゆっくりと身体を起こす。
この体型での生活にもだいぶ慣れたようだ。
「寝てていいっスよ、ベッド行く?」
「大丈夫、ご飯あっためなおすね」
「十分あったかいって。頂くっスわ」
お腹が大きくなってきたせいで腰痛に悩まされているらしく、腰を少しさすってからみわは立ち上がった。
女性は、妊娠が分かったその瞬間から母親になるんだもんな。
分かってはいるけど、オレはまだピンと来ていなくて。
来年の今日は、3人で過ごすんだよな。
不思議な気持ちだ。
みわは、オレが知らなかった気持ちを全部くれるんだ。
出逢ってから、今日までずっと。
そんな彼女に、オレは何を返せるのかな。
「いただきます」
偶然にも重なったその声にすら、幸せを貰えて。
見た目も華やか、オレの好物ばかり並べられたテーブル。
栄養たっぷりの料理たちは、気持ちだけでなく疲れた身体も満たしてくれる。
「んー、やっぱりみわの作ってくれるオニオングラタンスープが一番好きっスわ」
思った事を言っただけなのに、みわは俯いて頬を染めた。
変わんないなぁ、そういうトコ。
「涼太」
「ん?」
「お誕生日、おめでとう。生まれてきてくれて……本当に、ありがとう」
「……こちらこそ、っスよ」
なんだろう、いつも言ってくれるセリフなのに、いつもよりずっとじんわりと沁みる。
オレもトシ取ったんスかね。
グラスにはお気に入りのワイン……と言いたいところだけど、注がれているのは、みわに合わせてグレープフルーツジュース。
コン、と優しい音を立てながらグラスを重ねると、薄黄色の液体が微かに波打った。
ああ、幸せだな。
なんでもない事が、こんなにも幸せだ。
「みわ」
「うん?」
「愛してるよ」
来年も再来年も、ずっとお祝いして。
アンタの隣でその笑顔を見る事が、オレの幸せだからさ。
♡Happy Happy Birthday Ryota Kise♡