第13章 Mic check!(黄瀬涼太)
コメント欄がものすごい勢いで流れていく。もはや速すぎて読めない。
涼太は別のPCのコメントビューで見ているから、上から順に見れているようだけれど……。
『んー、オレならどうするかって質問っスよね?
まず、仕事は最低限にして家のことに集中するかな。
奥さん、早く帰って来て手伝って欲しいって言ってるんだから』
あまりの長文だったから、涼太も画面とこちらを交互に見ながら話している状態だ。
『そりゃ自分も仕事が忙しいっていうのは分からなくもないっスよ。でも、自分が一生守るって決めた奥さんが辛くてヘルプ出してる、ってこれ以上の危機がどこにあるんスかね? どっちが良いとか悪いとか、よくSNSでも話題になるけど、例えばこれでオレが"そんなの奥さんの甘えです"って返事したとしたら、それが君からの奥さんへの返答になるんスか? 黄瀬涼太がこう言ってるから、みんながこう言ってるからもっとしっかりしろって、言うんスかね?
目を向けるべきは、目の前の奥さんだと思うんスけど……大事にしなきゃいけないモン、見失ってないスかねえ』
わ……それは本当に、そうかも。
私はSNSはたまに企業からの情報収集に使うくらいだから、あまり一般の方の投稿を見る事はないんだけど、涼太が言ったような論争が絶えないと聞いた。
目の前の大切なひとの声を聞く。
目に見えない人の意見を何百万聞いたとて、それは無関係な他人の雑音なだけだ。
勿論、参考になる意見を集めて、これからの自分の行動に活かすのならまた話は別だけれど。
この質問からは、"奥様を悪者にしたい"という気持ちが滲み出ているのだ。
『それに、帰ってビール飲んで寝てるって、普通帰って来たら少しでも交代して休ませてあげない? そりゃ、ずっと面倒見てくれてる奥さんよりは上手く対応出来ないと思うけど、とにかく寝て〜ってなるのが自然じゃないスか?
育児って24時間365日、休みなしなんスよ?
夜泣きするから寝室分けるって、口実でもなんでもなくて、疲れてる夫を起こさないようにって奥さんの気遣いじゃないの?』