第9章 Some things never change(黄瀬涼太)
「オレ、今日休みになったんスわ」
「そうなんだ。久しぶりのお休みだね。ゆっくりしてね」
リビングで窓の外を見ながらそう言った夫……涼太の顔は、とても疲れていた。
今年は海外遠征の機会も多く、今回も数日前に帰国したばかり。
帰って来ても家で休む時間などほぼなく、バスケ以外の仕事があったりでスケジュールが真っ黒な日々だった。
「うん。一日予定ないからみわもちょっとは楽して」
「うん、ありがとう」
私はというと、ふたりの子育てに奔走する日々。
時々涼太のお母さんやお姉さんも来てくれるけれど、毎日ではないし……。
大人の手があるという事で、正直安心する。
子どもにも、無理のない程度にかまってくれたら助かるな。
何より……顔を見れて、嬉しい。
ずっと画面越しだったから。
「んじゃ、今日は久しぶりにパパと行くっスよ〜」
「わーい! いってきまーす!」
あれこれと思いを巡らせているうちに、涼太は息子の通園バッグと水筒を持って、玄関へと向かっていく。
「りょ、涼太、大丈夫!? 時差ボケ辛くない? ちょっと寝た方がいいよ! 私行くよ!?」
昨夜だって帰宅したのは日が変わってからで、殆ど寝ていないはずだ。
彼の仕事は一般人のそれとは全く異なる。
休める時に少しでも休んでおかないと……。
「今日帰国したばっかりとかじゃないんスから。家に居る時くらい行くってば。幼稚園の様子も見たいしね」
「でも、週刊誌とかに撮られたら」
「だーいじょうぶ。叩いてもホコリが出ないと記者に嫌われた涼太くんっスよ」
「う」
そう言われてしまったら、断れない。
涼太も譲らないタイプだ。
「う……うん、分かった、ありがとう。気をつけてね! 行ってらっしゃい!」
「行ってきまーす」
涼太は息子と楽しそうにお喋りをしながら、出発していった。