第4章 海のいいつたえ
親父にも真依にも帰れと言われたが、大人しく帰れる訳がなかった。
おっちゃん達に囲まれて項垂れるあかりを見ていたら尚更だ。
俺とまなかは社の横手に回り込み、そっとその障子を開けて中を伺う。
けれど見えるのは、酒を飲みながら話を聞いているだろううろこ様と親父の背中。
その向こうにあかりの横顔が少し見えるだけで、声までは拾えない。
うろこ様の後ろに、巫女服を身にまとった真依が立っているが、その表情はいつもより数段大人びて見えた。
「くそっ、聞こえねぇ!」
「ぁ、今うろこ様おならしなかった?」
「なんで屁の音だけ聞こえんだよっ!!」
まなかの呟きに思わずツッコミを入れてしまって、それを咎めるように「しぃーー!」とだけ言われる。
「光っ!!」
どこからともなく俺を呼ぶ声はちさきのもの。
「聞いたよ、あかりさん…」
「「しぃーー!!」」
その大きな声を指摘するために、まなかと一緒になって、自分の口の前で人差し指を立てる。
ちさきの後ろからこちらにやって来る要の姿も見えたが、要は何も言わなかった。
そしてもう一度中の様子に目を移すと、俺たちに気付いたあかりと目が合う。
こちらを見つめて頼りなさげに微笑むあかりの名前を、俺は無意識のうちに小さく吐き出していた。
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