第3章 ひやっこい薄膜。
「うろこ様の前でちゃんと話を聞かせてもらわねぇと」
そんな責め立てるような言葉を聞きながら、社の扉を開け放つ。
「離して!!お父さんには自分で言うからっ」
『なんの騒ぎですか?』
あかりさんの叫びを遮るように、努めて平坦な声で言った。
私が現れたことで、その場に少しの沈黙が落ちる。
私が鹿生から追放されたあの人の娘なのは周知の事実だから、それも頷けた。
「あかり!!」
重苦しい空気を壊したのは、騒ぎを聞きつけただろう光の声。
「ぁ、ひぃくん!」
この状況に戸惑っていたまなかも、少し安心したようだった。
「お前らにゃあ関係ない。ここは引っ込んで……」
あかりさんを取り囲む村のおじさん達は、見知った顔ばかり。
「待て。そろそろ光らも知っておくべきじゃねぇか」
考え込むような素振りで、そう言い出したのは酒木のおじさん。
私が昔住んでいた家のお隣だった人だ。
「村の掟に背いたらどうなるかってことをな」
「どうなるかって……、どうなるんだよ!」
声を荒らげて問いただす光を止めなくてはと思っていたら、こちらに向かって来る宮司様の姿が見えた。
「どうした」
「親父っ」
それに気付いたのは私や光だけではない。
「来たな宮司様!」
「あかりが地上の男とデキてやがったんだ!!」
それを聞いて顔色を変える宮司様をも責めるかのように、言葉を続けるおじさん達。
「見た奴が居るんだよっ!」
しばらく瞠目していた宮司様が、口を開く。
「今日のところは引いちゃくれないか」
「宮司様……」
「あかりにはちゃんと、俺が言い聞かせておく」
「宮司様、こいつは問題だろう!!」
「宮司様んとこから地上に行った人間が出たら、面子が立たねぇべ!」
「あぁ!わかってる」
俯いたままのあかりさんを庇うように、光のお父さんが連れ立ってこちらへ向かって来る。
「お前たちは行ってろ」
「えっ、で、でも……」
『聞いてて気持ちのいい話じゃないし、宮司様の言う通りにした方がいいよ』
光とまなかの顔を順に見つめて、まだ言いたいことがありそうな人達に目を向ける。
『うろこ様もあまり騒ぎ立てるなと仰っていますので、皆様もお引き取りください』
そう声を上げ、二人を迎え入れるために社の扉を開けた。
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