第84章 人を陥れようとすると足をすくわれる。
高杉は人一倍松陽を慕っていた。誰よりも強く。銀時が感じる主観を土方に話した。正直なところ、葵咲の話からそれだけではない事は薄々感じてはいる。だがそれは葵咲から聞いた話。葵咲(ほんにん)のいないところで、それを軽々しく第三者に話すのは如何なものかと思い、それを土方に言わぬべきだと判断した。
土方「…吉田松陽に…か。なるほど、な。」
どこかホッとしたような表情を浮かべる土方。そんな土方を見て銀時はフッと笑みを漏らす。先程まで蹴落とそうとしていた相手だが、こんな安心したような表情を浮かべられては何も言えない。今回はこれぐらいで勘弁してやるか、などと思った。
そんな銀時の心情など知るよしもない土方は、柔らかな表情で止めていた箸を進め始める。
(土方:そうか。そう、だよな…高杉(ヤツ)が葵咲(あいつ)自身に執着するとか…。葵咲(あいつ)の身体を大事に扱うなんてあるわけ・・・・。 !)
突如思考を停止させてその場で固まる土方。その表情からは先程の色は消えていた。そして無意識に手に持っていた箸を丼ぶりの上に置く。
土方「・・・・・。」
葵咲「? どうした?」
様子がおかしい土方に問い掛ける銀時。だがそんな銀時の声は土方には届いていない様子。土方は一人、青ざめたままブツブツと独り言を唱え始めた。
土方「…いや、まさか…、んなわきゃねぇ。…んな事、あるわけねぇだろ…。相手はあの高杉だぞ。」
葵咲「?? お前、何言って…。」
そこでようやく、土方は銀時の方へと目を向けた。だが決して先程からの銀時の声が届いていたわけではない。土方はなおも青ざめたまま、考え込むように銀時の顔をじっと見つめる。
ますますもって様子がおかしい土方に、銀時は不審がるような目を向ける。
葵咲「おい?」
土方「悪い。ちょっと先帰るわ。」
葵咲「え?ちょ、おい!!」
そう言って土方は一口程しか手を付けていない土方スペシャルを残し、定食屋から出て行った。