第84章 人を陥れようとすると足をすくわれる。
ちょうどこの日の朝にした話題。“内臓を避けて刺された”傷の事だ。まさかそんなタイムリーな話をされるとは思っていなかった為、銀時は一瞬目を見開き、驚きの表情を見せた。
だが、よくよく考えれば土方がこのタイミングで話すのはちょうど良い頃合いなのかもしれない。銀時自身も、つい先日松本と共にその話を耳にしたばかりだ。それから松本が土方に報告していれば納得のいくタイミングである。
銀時は目と眉の距離の縮まった真剣な眼差しで前を見据えて頷いた。
葵咲「…あぁ。この間聞いた。」
土方「この間?退院した日に話したって聞いたけど。」
またもや つい自分の感覚で話してしまった。そういえば今朝葵咲は、退院する時に主治医から聴いたという話を思い出す。銀時は慌てて土方に話を合わせた。
葵咲「え!?あ、そう!ごめんそうだった!忘れてた!」
土方「ああ、いや、悪ィ。黙ってた事を責めるつもりで話を切り出したわけじゃねーんだ。」
慌てて話を合わせる銀時を見て土方は、別の気遣いを見せた。それは葵咲が、この件に関してずっと黙っていた事を問い詰めたような形になってしまった事に対する詫びだった。
その気遣いに気付いた銀時は落ち着きを取り戻し、再び土方の言葉に静かに耳を傾ける。
土方「お前と高杉が幼馴染だって事は知ってる。だが、それ以上の何か…高杉のお前に対する…執着みてぇなもんを感じる。」
葵咲「!」
土方「…お前が今、高杉(ヤツ)の事をどう思ってんのかをここで問い詰めるつもりはねぇ。お前がどう思ってるかに関わらず、恐らくヤツはお前に執着してやがるって話だ。」
土方の見解には銀時も同意見だった。だが自分の意見をどこまで土方に伝えるべきか…。
悩んだ末、銀時は自らの見解を少しだけ話す事にした。
葵咲「…確かに、その推測はあながち間違っちゃいねぇだろうな。奴が…高杉が葵…私に執着してるのは確かだ。だがそりゃ葵咲(わたし)じゃなく、吉田松陽の方だろう。」
土方「!」
葵咲「奴は先生に今でも固執してやがる。この間対峙した時に感じたが、あいつの心にはまだ先生が深く根付いてる。」