第84章 人を陥れようとすると足をすくわれる。
定食屋に入った二人はいつもどおりカウンター席に座る。席に着くも、沈黙が下りる二人。“話したい事がある”、そう言った割に土方から口を開く気配はない。何かを考え込むようにずっと俯いていた。
(葵咲:こいつ、話があるって言った割に全然喋らねぇな。)
そう思ったものの、こちらから口火を切れる雰囲気でもない。どうしようもなく重苦しい空気の中、二人が注文した丼ぶりが出された。銀時は半ば話をする事を諦め、自らが注文した宇治銀時丼に箸をつける。
そんな銀時の一連の行動は視界に入っていなかったのか、土方は食べ始める前に話をするべく銀時の方へと目を向けた。だが自分の大事な話よりも気になるものが。土方は思わず銀時の手にある銀時丼を見て眉をひそめた。
土方「…お前、そんな悪趣味なモン食べてたっけ?」
葵咲「何言ってんだ。ご飯に小豆、最高の組み合わせじゃねーか。オメーの方こそ悪趣味な…」
土方「オメー?」
(葵咲:しまった!ついいつもの癖で…!)
大好物を目の前に、お預けを喰らいそうになるあまり、思わず苛立ちで素の自分に戻っていた。指摘を受けてハッとなる銀時。慌てて取り繕うような言葉を押し出す。
葵咲「あ、いや!最近甘い物…とか、スイーツにハマって…て。おはぎと…同じ…です。土方…さんも食べてみたらハマるんじゃない…かと!食べな…さい!」
土方「いらねーよ。色んな意味で気分悪くなるわ。つーかなんで急に紅緒みてーな喋り方になってんだよ。おはぎマンとか認めねーからな。」
紅緒とは双星の陰陽師の化野紅緒のこと。紅緒はツンデレ風で大変可愛らしいが、それを中身が銀時の葵咲が言ってもちっとも可愛くない。それを本能的に察知したのか、土方は内心少しイラッときていた。土方はアンチおはぎマンらしい。キャラ自体は大変可愛いのだが、どうも小豆とご飯という組み合わせを見ると銀時を思い出してしまうのだ。
まぁそれはさておき、そうして再び黙りこくってしまう土方を前に、銀時は一つため息を付きながら、箸を置いて言葉を掛けた。
土方「・・・・・。」
葵咲「一体どうし…」
“どうしたんだよ?”、その言葉を言い終わる前に、土方は言葉を押し出した。
土方「お前の傷の…高杉に刺された傷の事を聞いた。お前も…傷の事は知ってたんだろ?」
葵咲「!」